002

街に着くと辺りの人々、風景も変わらず活気に溢れている。色んな種族が和気藹々としていた。俺のことを知っている住人もいるようで、挨拶がてらに声も掛けられているんだが、どうにもこういうのには慣れないな。

「ユウタさまは今、話題の御霊さまですからね。」

「そうなの?たしかに・・・ちょっと悪目立ちしてそうな気はするけど・・・。」

「ふふふ。嫌われているわけじゃないからいいじゃないですか。」

ファムはとても楽しそうに笑う。そんな姿に俺は胸が高鳴る。そりゃ、これから婚約式をするんだからな・・・。こんなにも可愛くて性格も良くて、ナイスバディな女の子と婚約だなんて幸せすぎるな。

「あ、ユウタさま。こっちです。こっちーー。」

少し先に行っていたファムが俺を先導するように案内してくれる。が、こっちってファムの家のほうじゃないんじゃないかな・・・。フィリアさんの家でもないし、どこに向かっているんだろう。もちろん神殿のほうでもなさそうで、だんだんと不安になってくる。また、変なことに巻き込まれるんじゃないんだろうか・・・。

ファムが案内する先には割と立派な家・・・。ルイスの家ほど悪趣味ではないけど金持ち・・・っていうようりは偉い人が住んでそうな家だな。

「ファム・・・。ここって?俺に見せたいものってここのこと?」

「あ!違います。ユウタさまに見せたいのはここのことじゃなくてですね・・・。えっと・・・ここはおばあちゃんのおうちで・・・その・・・。」

う・・・ファムがなんだかとても言いずらそうにしているな。嫌な予感がする。

「その・・・ですね。ユウタさまと婚約式するのにおばあちゃんが一言、言いたいっていうので・・・連れてこいって・・・。」

「・・・アスタさんが、一言・・・ね。」

「・・・嫌、ですか?」

ファムが少し悲しそうな顔を見せる。そんな顔されたら断れるわけないだろう。・・・まあ、断る気はないんだけど。

「嫌じゃないよ。ただ、何かなって身構えてただけさ。・・・むしろ、ちゃんと式のことを覚えてくれていたのが嬉しいくらいだよ。」

正直、またなんかのトラブルとかでお預けだとか、無かったことになっているんじゃないかって不安があったぐらいだからファムの口からちゃんと婚約式のことが聞けて安心しているのは本当だ。ファムにも笑顔が戻ったようだ。

「忘れるわけないじゃないですか!私だって!・・・私だって・・・。」

ファムは顔を赤らめてモジモジとしている。ああ、可愛い。

「なにを人の家の前でいちゃついとるんだ!」

いつのまにか玄関の扉は開いていて、そこにはアスタさんが呆れた顔で立っている。あらら、どこから聞かれていたんだろうか・・・。

「あ、えっと・・・アスタさん、お久しぶり・・・。」

「いいから!さっさと入らんか!まったく恥ずかしい孫と御霊様だよ。」

アスタさんはそう言って、家の中へと行ってしまった。俺とファムは顔を見合わせて笑い、アスタさんを追うように家の中へと入って行った。


「うわぁ・・・なんか凄い部屋だね・・・。ファムの部屋とまた全然違うね。」

ファムの部屋はどちらかというと落ち着いた感じというかあまり派手ではなかった印象だけど、ここは、また、すごいな・・・。アスタさんの趣味なのかはわからないけどあちこちに宝剣やら杖やらが飾ってある。俺が貰い受けた宝刀もここに飾ってあったんだろうか。

「私も初めて入った部屋なので知りませんでしたけど、ここの剣とか杖が賜物の儀で渡されるんでしょうか?」

「あ、いや、どうだろう・・・。俺も同じこと考えてたけど。」

「ここの飾りは全部レプリカだ。こんなところに宝剣と呼ばれる神聖な宝具を置くわけがあるまい。」

そう言いながら、アスタさんが部屋へと戻ってきた。俺とファムにお茶を用意してくれたようでテーブルにガサツに置く。俺とファムはお茶を置かれたテーブルを挟むようにアスタさんと向かい合わせに座った。

「それで・・・御霊様よ、このバカ孫と婚約をしてそのあとはどうするつもりなんだ?」

アスタさんは真剣な眼差しで俺を見る。なにかを試しているんだろうか?

「えっと、式が終わったら・・・ファムが行きたいって言っていた場所へと行ってみようかと思います。」

「ユウタさま・・・。」

「・・・ったく、やっぱりそうか。このバカ孫を連れてこの街を離れるということが世界にとってどれだけ危険なことかはわかっているんだろうな。」

そう言われて俺はファムを見る。ファムはきょとんっとしていてよくわかっていないようだ。

「なんとなく、アスタさんが心配していることはわかります。でも、だからと言ってファムを縛り付けるのはオカシイんじゃないかとも思います。」

「・・・・・・。」

「おばあちゃん。私はお母さんとお父さんがどうなったのか・・・生きているのか、何をしているのかを知りたいの。・・・そのためには・・・。」

「わかっておる!賜物の儀でおぬしらの覚悟はわかった。私が言いたいのは本当に私が危惧するようなことにならないのか、ということだ。」

「・・・どういうことですか?」

「御霊様よ。本当にファムを任せてもいいのか?」

いったい、どういう意味なんだろうか。任せてもいいのか?普通に考えればいいよって言うだけなんだけど、それがどういう意味を持つのかがよくわからない。

チラっとファムを見ると若干不安そうに俺の返事を待っている。・・・ここで何を勘ぐっても仕方ないよな。

「もちろんです。俺がファムを守ります。」

俺のその言葉を聞いてアスタさんはニヤっと笑う。

「そうかそうか・・・。それならば・・・」






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