1-1-04

 俺は思わずこたつの天板に、ごつんと頭を打ち付けた。

「なに、その設定。かんべんしてよ」

 こたつにあごを乗せたまま、俺はメサを見上げた。

「え」

 メサはうろたえている。

「どうせ親父に入れ知恵されたんだろ」

 どうやら最近、親父はライトノベルを読んでいるみたいだ。あれほど毛嫌いしていたのに、どういう心境の変化なのかは知らない。さだめし、あげ足を取るためのネタ探しでもしているんだろう。

 メサが首をかしげる。「入れ知恵、とは何ですか」

 細かく説明するのも面倒だったので、俺はお茶を濁した。

「親父からそういえって、いわれたんだろ」

「はい。これはお父さんの指示です」

 俺はため息をついた。案の定、親父はいかにもラノベ的な馬鹿げた理由を俺にぶつけることで、嫌味をいおうとしているらしい。

「お父さんの指示ではありますけど、それは私の意志でもあります。そのために私はここにいるのです」メサは続けた。

「心配しなくても、当面書かないよ」

「ほんとですか?」

「ああ。次回作はまだプロットも固まってないからな」

「じゃあ、このまま隠居してください」

「いや、俺まだ二十一だし……。たぶんそれ、使い方間違ってる」

「そ、そうなんですか」

「それをいうなら、引退だろ」

「そ、そうでした。じゃあ、このまま引退してください」

「そういうわけにはいかないよ。せっかく商業デビューできたんだ。少し時間はかかるかもしれないけど、いずれラノベで大ベストセラーを書いてやる」

「はあーっ」メサは大きなため息をついた。「だーかーらー。そうなっちゃったらすごく困るんですって」

 ばん、とこたつの天板に両手をついて、メサは立ち上がった。

「仕方がありません」

 メサはいきなり服を脱ぎだした。

「ちょっ――な、なにやってるの?」

「色仕掛けっていうんですよね、こういうの」

 俺のダウンジャケットを脱ぎ、シャツのボタンをはずし始める。

「いやいや、いわないよ」

「……嬉しくないんですか?」

 怪訝な顔でこちらを見る。

「嬉しくないよ!」

「おっかしいなぁ」

 いや、ちっともおかしくないから。

「じゃあ、悲しいですか?」

 またそれか。

「苦しいですか? それとも悔しいですか?」

「苦しくも、悔しくもないから。それより、服を着ろ、服を」 

「じゃあ、書くのやめてくれますか?」

「なんでそうなるんだよ。お前、いってることが、むちゃくちゃになってきてるぞ」

 そうこうしているうちに、シャツはすべてボタンがはずされて、彼女の足元にぱさりと落ちた。メサは下着を着けておらず、ふくらみかけた胸があらわになっている。俺は思わず目を逸らす。そんな俺の反応にまるで気が付いていないみたいに、メサはこたつの上に四つんばいになると、俺の顔にぐいっと自分の顔を近づけた。

「書くの、やめてくれますか?」

「わかった、とりあえず話だけはちゃんと聞くから」

「ほ、本当ですか?」

 メサはぺたんとこたつの上に座り込んだ。

「ああ。だから、とにかく服を――」

 そのとき、突然リビングのドアがガチャリと開いた。

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