act8 赤髪の隻眼

「ここ…のはず」


先程襲われた場所に馬を戻し、馬から降りる。ぱっと見でネックレス、と分かる物は無い。もう盗賊に持って行かれてしまったかも知れない。そう思うといても立ってもいられなくて、ただただ、地面に這い蹲り、ネックレスを探す。


「無い、どこにも…」


絶望の谷に突き落とされた気分だ。あのネックレスは私のお守り代わり。それなのに…

泣きそうになっていると、背後から足音が聞こえた。


「誰?」


また先程の盗賊かと振り返ると、そこにいたのは燃える様な赤い髪の、隻眼の人だった。

手には、先程まで私が探していたネックレスが握られている。


「探し物はこれか?」


「なんであなたが…」


「落し物を拾ってあげただけだ。何か文句でも?」


釣り目を楽しそうに歪ませ、口元には余裕の笑みが浮かんでいる。落し物、と言っても返す気は無いのだろう。


「落し物なら、持ち主に返すのが妥当でしょ」


「あいにくとそんな良心は持ち合わせて無くてな」


「…貴方の目的は何」


そう聞くと、赤髪はまた顔を楽しそうに歪める。


「何、難しいことじゃ無い。ちょっとついてきてくれるだけで良い」


「何をする気」


「このネックレス、ここで粉々に砕いても良いんだぜ?」


そう目の前にネックレスを掲げられ、頭が一気に真っ赤になった。

けれど、すぐに冷静さを取り戻し、状況を確認する。相手は私が王家の人間か、もしくはそれに連なる人間、という事を知っているんだろう。なら身代金でも要求するつもりか。けれど、父は私にビタ一文も払わないだろう。


「…分かったわ。貴方について行く。その代わり早くそれを渡して」


「まあそう焦るなって。すぐ渡してやるよ。お前が言う通りにしてくれりゃあな」


赤髪はそう言い、私の両腕を拘束し、私を押す様に歩き出した。私はマルクに心の中で謝りながら、彼の旅の健闘を祈った。










「っ!間に合わなかったか!!」


一方その頃、マルクは拘束されたリリィを見て、悔しそうに拳を打ち付けていた。

このままではリリィの身が危険に晒される。

その自体はマルクにとっては確実に避けたかった。マルクは、赤髪とリリィを追うべく、もう一度馬を走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒薔薇の騎士に白百合の口づけを 星空カノン @starsnow187

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ