act7 最初で最後

「っはあ、はあ、」


馬を減速させながら、ゆっくりと後ろ見る。

さっきの場所からはだいぶ離れたようで、私の後ろにはもう何も見えなかった。


「…ごめん、もっと早く気付けば……怪我は無い?大丈夫?」


「ええ、大丈夫。…マルクのせいじゃないから気にしないで」


ふと、先ほどのことを思い出す。目を開けた瞬間に、周りの人達が倒れていた。あれは一体…?


「にしても驚いた!リリィって魔法が使えるんだね!」


マルクが表情を一変させ、笑顔で私に聞いた。魔法…なのだろうか、さっきは何が起こったのか分からなかったが、幼い頃も似たような事があった気がする。けれど、本当に幼い頃で、覚えているのは姉が私を化け物と罵った事位だ。後は何も覚えていない。


「俺、魔法の適性は全く無かったんだよなあ…」


なんて、マルクがぼやく。

それを言ったら私も魔法の適性は全くと言って良いほど無かった。けれど、宮廷魔導師を見ていると、魔法の適性は無くて正解だったと思わずにはいられなかった。


魔法、と舞い上がっているマルクに否定をする事はせず、自分の体について考える。

私の体には私が知らない力がある。それがなんなのかは分からない。けれど、この先の出会いでそれが分かる様な気がした。


それが私にとって良いことなのか、悪いことなのか。まだ分からないけれど、この現状を変える様な気がして、少し胸が高鳴った。


少し馬を走らせ、違和感に気づく。


「…!私…ネックレス落としてる…」


「え!それいつ?まさか、さっき襲われた時か!?」


「…た、多分」


あのネックレスは、あのネックレスだけは絶対に無くしたく無い物なのに…!

心の中に不安と焦りが、一滴零れた墨のように広がっていく。今は亡き母からの大事な大事な贈り物。王家の紋章が彫られたそのネックレスは、私にとって初めてで、そして最後の母からのプレゼントだった。


「っ、どうしよう…」


「…今取りに行くのは危険だ。もう少し待とう」


そんなマルクの声も私の耳には届かなかった。


「ごめんなさい、先に行ってて!」


私は馬を反対に回転させると、手綱を握り、勢いよく走らせた。


「おい!!リリィ!!待てって!!」


後ろにマルクの叫び声を聞きながら。

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