act4 宿場町ウェスタン
馬を降り、橋を渡ると、あちらこちらに灯りがともる、賑やかな街に行き着いた。
「えっと、ここは…」
地図を広げ、自分の場所を確認する。
城から来て少し東に歩いたから…
「ウェスタンだよ」
「ああ、あの有名な……って」
広げていた地図を肩越しから覗かれ、突然話しかけられた。驚いて自分の後方を見ると、そこには人当たりの良さそうな爽やかな青年がいた。綺麗な金髪の髪に、アーモンド型のクリクリとした目は、女の子を引きつけて離さないだろう。
「あなたは…」
「ああ、驚かせてごめんね。俺はマルク、ここで宿を手伝ってるんだ。…君は?見たところここの人じゃ無さそうだけど」
「あら、そうなのね。私はリリィ。黒、じゃなくて、えーっと…旅、そう、旅をしているの」
「そうか、それならここに来たのも納得だな!何せここは、ヘリオス国最大の宿場町、ウェスタン!ここで握れない情報も、手に入れられない物も無いからね!」
「へえ、そんなに大きな街なの…」
宿場町ウェスタン。地理の勉学の時に少しは学んだが、そんなに大きな街だとは知らなかった。そもそも、私は城下町以外の街に降りた事が無い。だから、城下町以外がどんな街なのか、知る事が無かったのだ。
「ねえ、ところで君、泊まる宿はもう決めたの?決めてないならうちに来なよ!!君みたいな可愛い子ならサービスしちゃうよ?」
「…馬を、泊められる場所はあるかしら?」
「もちろん!水も餌もちゃんと用意してあるよ!」
「そう、じゃあお世話になろうかしら」
「へへっ!やった一丁上がりぃ!!」
そう満面の笑みを浮かべるマルクは、まるで幼い子供様だった。
純粋に生きていけている気がして、少し羨ましい。その後、マルクに案内をしてもらい、シンドを馬小屋につけ、私はマルクの手伝っている宿の食事処にいた。
そこはとても賑やかで、ステージ上で踊る、踊り子を見て盛り上がる人もいれば、お酒を飲みながら浮かれて、大声で笑っている人もいた。木で出来た、端っこの椅子に腰をかけ、その様子を見守る。こんな世界もあるんだと、新たな世界を見れた事に嬉しさを覚え、自然と笑みが零れた。
「おまたせ、これうちの特製シチュー。上手いってここらじゃ評判なんだ。」
と、マルクが持って来たものは、城では絶対に食べられない様な、珍しい食べ物だった。
白いそのスープは少しとろみがかかっていて、大きく切られた野菜達がとても美味しそうに湯気を上げている。一口、口に含んでみる。
「!…美味しい」
「だろ?ここのシチューは村一番なんだぜ!」
と、マルクが言うと周りの男の人達がヒューと、口笛を吹いた。
「マルク坊ちゃん、ついにガールフレンドかい?随分なべっぴんさんじゃねえか」
その一言にマルクは顔を真っ赤にさせて慌て始めた。
「っそんなんじゃ無いって!!ただの友達!」
「…友達?」
「ああ、ごめん、迷惑…だよな。俺と友達、なんて」
途端に悲しそうな顔をするマルクに、次は私が慌てて弁明する。
「ああ、ごめんなさい。勘違いしないで、嬉しいの。私、友達がいた事が無いから…」
そう少し下を向いてマルクに言うと、マルクは目を見開いてから、ホッとした様な笑顔を浮かべた。
「そうか、なら俺がリリィの友達第一号だな!」
「!…そうね。マルク、よろしく」
初めての友達が嬉しくて、城を出て良かったと思えた。だってこんなにも純粋な友達を持てたのだから。私たちを茶化した男の人たちは、とっくに私達に興味をなくし、ステージの踊り子に釘付けだった。
「ねえ、君の旅の話、聞かせてよ!」
「え、私の旅の話…?」
「そう、どんな旅をしているの?」
「…えーと、特に目的は無いの。城下町のリオスから旅立って、東の森を目指そうと思ってる。」
東の森、その言葉を聞いた瞬間マルクの目は大きく見開いた。
「東の森?それって未開の地だろ?」
「ええ、そうよ」
そういうとマルクは、苦虫を潰した様な顔をして、私の目を覗いた。
「あそこの森、最近良い噂聞かないぜ?なんでも夜にカラスの声がしたり、猛獣の鳴く声がしたり」
そんな怖い森に、私の父親は私単身で向かわせたのか。今思うと、ただ家から異端の私を追い出したかったかの様に思えて来た。
「ここはいつ出るんだ?」
「明日の朝には出るわ。だから今日はもう寝たいの」
「ふーん。明日の朝か…じゃあすぐ部屋を用意するな!」
そうマルクは言うと、足早に階段を登って行き、私の部屋を用意しに行ってくれた。
まだ一つ目の街だけれど、城がいかに閉鎖された空間なのかを痛感した気がする。
旅に出なければ体験できない事、それはこれからたくさん経験するだろう。けれど、この賑やかな街を見ていると、姉との違いに悩んでいた自分がバカバカしく感じてくる。このまま城に戻らずに一生旅をして暮らしてやろうか。そんな気も浮かんでくる程だ。
「…でも、それは出来ない…」
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