act3 初めての一人旅

そうして、あれよあれよと時間は過ぎ、ついに私の旅立ちの時となってしまった。

騎士を救いに行く、と聞いた時は、まさか今日の今日で出発するとは思わず、了承の意を示した時にメイド達が雪崩れ込んできたのには驚いた。


詳しい説明も受けず、宰相からはご武運を、とだけ言われ地図を渡され、腰まである白の髪も、邪魔にならない様にと後ろに結われた。淡いピンクのドレスを剥ぎ取られ、着せられたのは茶色のパンツに白のシャツ、そしてマントが手渡された。

初めは従者を引き連れ、仰々しく回るのかと思っていたが、どうやら違うらしい。私が一人で旅にでるっぽいのだ。


気づけばいつの間にか、私の愛馬、シンドに乗せられ、必要最低限の物を待たされ、城の門を出ていた。

いや、私は姫なのだ。作法や芸事の勉強はしていても、旅の仕方の勉強なんてしてる筈が無い。こんな形で放り出され、一体どうしろと言うのだ。


「どうしよっか、シンド」


シンドに聞いても、ヒヒーンと返ってくるだけで、なんの助けにもならなかった。

とりあえず、前に進むことにしよう。前に進まなければ何も始まらない。と私はシンドのお腹に軽く力を入れ、前進させた。蹄が砂を蹴る音がなんとも心地よい。


我が国、ヘリオスは太陽の神を祀っている国だ。その太陽が陰ると言う事は、この国に何か良からぬ事が起こるという事。私は予言の書に書かれていた、と言うとこを思い返し、はあ、とため息をついた。


そもそも、黒薔薇の騎士は神話レベルの話の人なのだ。昔、その見目の麗しさから、魔女に愛されてしまい、連れ去られてから、黒薔薇の覆う城でずっと眠らされているという昔の話。本当かどうかなんて、多分誰にも分からないだろう。しかも、"中途半端"である私が救いに行ったとしても、彼は目を覚ましてくれるかすら怪しい。


この国では、金色の髪が当たり前と言われている。金色の髪こそが太陽の象徴、太陽の神から加護を与えられた者の証なのだ。

しかしどう言うことか、私は白の髪を持って生まれてしまった。つまり、太陽の神の加護を受けずに生まれてしまった。という事になる。それを知った時の父の落胆ぶりはそれはもう酷かっただろう。仮にも王族、その王女が、金では無く、真っ白の髪に生まれてしまったのだから。それから父は姉にだけ期待を寄せる様になった。まるで私をいないものの様に扱い、腫れ物の様に扱った。そんな扱いは確かに辛かった。けれど、唯一この髪を綺麗だと言ってくれた人のおかげで、私はこの白の髪を忌み嫌う事なく、むしろ誇りとして胸に抱いている事が出来る。


少し馬を走らせていると、城から大分離れた様だ。少し先には街の灯りが見えた。もうそろそろ日も暮れる。今夜はあの街で宿を取ろう。


「シンドも、お腹すいたでしょう?」


そう言うと、シンドは悲しそうに鳴き声を上げた。




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