act2 白百合の姫
と、これが私の昔憧れていた、お姫様のお話だ。年を取るにつれ、こんなものは夢物語だと理解し、物語のお姫様を目指すのをやめた。何故私がこんな話をしているかと言うと、遡る事数時間前に発端がある。
「リリィ、お前に大事な話がある。後で来なさい。」
普段、食事の時は滅多に顔を出さない父が、わざわざ私にこれを言うためだけに食事に顔を出した時から、嫌な予感はしていた。
その嫌な予感は、見事に的中した。
食事後、父の部屋を訪ねると、衝撃の言葉を聞かされた。すぐに旅の準備をし、黒薔薇の騎士を救え、と。流石の私でもそんな簡素な説明では理解出来るはずが無い。
そもそも、黒薔薇の騎士なんてものは、神話の中の話では無かったのか。
そう考えていると、父のすぐ側にいた宰相が、補足をするように説明してくれた。
「我々の国に代々伝わる予言の書はご存知ですね?」
私は無言で頷いた。
「そちらの書に、この様な事が書いてあったのです。太陽が陰りし時が来る。黒薔薇に囲まれて眠りたる騎士を救え。」
「…つまり、この国の窮地を救う為に黒薔薇の騎士を私に救え、と?」
「ええ、ご理解が早くて助かります。」
宰相は、胡散臭い笑みを浮かべ、私を見る。
そもそもその予言の書に書いてある事が正しいかも分からないのに、そんな事のために私は命を投げ捨てなくてはいけないのか。なんて口が裂けても言えるわけが無かった。
この国では父の言葉は絶対。逆らえば殺される。第二王女である私を選んだのも、第一王位継承者である姉に何かあるとまずいからだろう。私は口をキュッと横に結び、覚悟を決めた。
「承知いたしました。そのご命令、リリィ・ヘリオスの名にかけて、完遂してご覧にいれます。」
これでもし成果を残せれば、父は私を見てくれるかも知れない。姉では無く、私を。
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