わがヴィーン時代の一般的政治考察26

 この新運動の反ユダヤ主義は人種的認識の上にはなく、宗教的観念の上に立てられていた。この失敗を犯したためにまた第二の誤りを引き起こしたのである。


 キリスト教社会党の創立者の意見によればこの党がオーストリアを救済しようとするならば人種原理の立場に立っていてはならず、そうでなければやがて国家は解体されるに違いない。


 党の指導者の考えに従えばヴィーンの状態はあらゆる分裂的要素を度外視し、すべてを統一する観点を強調することが必要であった。


 ヴィーンのこの時代にはすでにチェコ的要素が強く混入していたので、初めから汎ドイツ的ではないこの党はあらゆる人種問題について寛容な態度をとることだけが必要だった。


 オーストリアを救おうとするならばこの点を無視することはできない。そこで人々は自由貿易主義のマンチェスター派に対する闘争によって、特にヴィーンに多くいたチェコ系の小企業家を獲得しようとした。その際にユダヤ主義と戦うことによって旧オーストリアのすべての民族の違いを超越したスローガンを見出したのである。


 こういう基礎の上に立った闘争がユダヤ人をほんの僅か心配させただけであったことは明白である。最悪の場合でも一杯の洗礼水がいつも商売とユダヤ主義を同時に救ったのだ。


 こんな表面的な根拠でこの問題を全部科学的に取り扱うことはできない。こういうやり方だけではこの種の反ユダヤ主義を理解しないものの多くには嫌われたのだ。


 人々は純粋に感情的な感覚から脱して真の認識に達しようとしなかったので、理念は精神的に限られる範囲にとどまったのだ


 インテリは原則として否定的な態度をとった。事態は次第にあらゆる事件のただ新しいユダヤ改宗の試みにすぎないとか、あるいは一種の競争的嫉妬のあらわれが問題だとかいうような外観を呈するようになった。


 しかし同時にこの闘争は内面より高尚な神聖さを失い、そして多くの人々、しかも極悪人にとって不道徳な唾棄すべきものに思われたのだ。全人類の生活が問題であり、すべての非ユダヤ民族の運命がその解決にかかっているという確信が欠けていたのである。


 この中途半端さによってキリスト教社会党の反ユダヤ主義の価値は失われた。それは外見的な反ユダヤ主義であり、何もないよりもさらに悪かった。というのは、人々が安心してなだめられ、相手の耳を引っ張ったつもりでいたものが実際には自分の鼻をつままれ、引きずりまわされていたからである。


 しかしユダヤ人はやがてこの種の反ユダヤ主義に慣れ、それが彼らの存在を妨害するより、彼らにはそれがなくなったときのもの足りなさを感じたに違いない。


 人々がここでこの多民族国家に大きな犠牲を払わなければならなかったのなら、ドイツ主義の代弁にもっと大きな犠牲を支払うべきであった。


 もし人々がヴィーン自体の地盤を失いたくないならば、「国家主義」ではあってはならなかった。人々はこの問題を敬遠することによってハプスブルク国家を救うことを望んだのだ。そしてそれゆえに崩壊したのである。


 しかしこうして運動は長く政党をその内的推進力で満たした強力な力の源泉を失ったのである。キリスト教社会主義運動はかくしてまさしく平凡な一つの政党になったのである。


 私はかつてこの二つの運動を一方では内心の脈拍から、他方ではその当時の私には全オーストリアのドイツ主義の苦しいシンボルに思えた稀にみる人物に対する驚嘆に魅せられ、細心の注意で追及した。


 力強い葬式が死せる市長を市庁舎から環状道路へ導いていったとき、私もこの悲劇を見る数十万人の人々の中にいた。


 内心感動を覚えながらそのときこの男の仕事もまたこの国を滅亡に導くに違ないない宿命によって無に帰せざるをえなかった。


 カール・ルエーガー博士はドイツに生まれていたならば、彼はわが民族の偉大な人物の列に並んでいただろう。彼がこの何もできない国で働いたということが、彼の業績と彼自身にとって不幸であった。


 彼が死んだとき、すでにバルカンの小さな火の手は日を追って急激に広がっていた。彼がまだ防止できると信じていたことは運命の悲劇であろう。

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