第8話 目はないが耳はある

「お隣さん…暇です」


外は激しく雨が降っていてそれなのに薄明るく、そんな天気の中私は暇を持て余していた。


「そうですね、お嬢さん。暇です」


お隣さんもぼ~と空を見ながらそう言った。

特に意味はないのだが、私は今お隣さんの家に来ている。そしてガラス戸を閉めて縁側でぼ~と空を見ているのだった。

手元の碁盤の上には私が持ってきたアイドルカツと味噌カツ名古屋味と言う駄菓子が数枚置かれている。


「ゲームでもしましょうか」


お隣さんはそう言って立ち上がると奥の方へ消えていった。


この家は外見はボロ屋だが中は割と綺麗だ。

そして部屋数も多くだだっ広いのだが、実際に物が多いのかそれともお隣さんが片づけ下手なのか、物で溢れかえっている。


ゆっくりとアイドルカツを食べていると、重そうな木の板を持ってお隣さんは帰ってきた。


板は二枚重ねになった物と一枚の板があったがどちらも禍々しい雰囲気に溢れていた。


お隣さんは嬉しそうに

「じゃあまずは、コックリさんとターンテーブルどっちからやります?」

と尋ねてきた。


この男はさり気なく私を殺そうとしているのか?そうだろ、そうに違いない!


私が冷めた目で見つめているとお隣さんは子供の様に「早くやりましょうよ!」と言った。


「嫌ですよ。そんな身を危険に晒すような遊び。と言うか、遊んじゃダメでしょ、普通に」

私がそう言うとお隣さんは残念そうに

「お嬢さんなら付き合ってくれると思ったのに~」

と言ってそれをしまいに行った。


多分あれはお隣さんなりのユーモアだったのだろう……


帰ってきたお隣さんの手にはトランプがあった。


「そうそう、そう言うゲームなら賛成です」

私がそう言うお隣さんは手早くカードを切って、二つに分けた。


「じゃあ、ジジヌキしましょう。負けたらなんかカミングアウトして下さい」

お隣さんはサラリとそう言った。

なんて酷い人だ。


そして、結局負けたのは私だった。


「じゃあ、お嬢さんの弱み教えて下さいよ」


お隣さんは嬉しそうにそう言った。

私は溜息を吐いて口を開いた。

「高校の時に好きな先輩が同じサイズで全く同じYシャツ来てたので体育の時間に自分のと入れ替えました!!これでいいですか!?」

私がそう叫ぶとお隣さんはニンマリと笑った。


私がぷいっと顔を背けるとお隣さんは少し可笑しそうに

「お嬢さん、こんな話を知ってますか?“運命には目がない。あるのは耳だけだ”って話」

と言った。


私が首を振るとお隣さんは空を見上げて

「世の中は不思議な物でね、口に出して初めて変わる事がある。それは独り言でも変わることがあるし、どんなに不格好な言葉でも口にして何かが変わり出すんだ」

と言った。


私は何も言わずにお隣さんの横顔を眺めた。


「お嬢さんも今ので何か変わったかも」

お隣さんは何か悪戯をした様にそう言って微笑んだ。


私はやはり何も答えなかった。


夕方頃には雨は上がり、私は一旦家に帰ってコンビニに買い物行くことにした。


そして、何となくあのYシャツを着ていく事にした。


「お嬢さん、」

お隣さんの家の前を通るとお隣さんに呼び止められた。


味噌汁の出汁をとる煮干しをついでに買ってきてくれとの事だった。


行きつけのコンビニ、774の帰り道、私はバッタリとあの先輩に出くわした。


何やら季節外れの帰省らしい。

私達は軽く会話をするとお互いの連絡先を交換して別れた。


これはさっきのカミングアウトのおかげなのか?なんて事を思いつつ、何となくお隣さんに感謝をした。

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