第4話 呻く壷。

「と、言う訳なんですよ。お隣さん」

私は庭越しに今までの経緯をお隣さんに話した。

「話はよくわかりましたけど…」

シャベルを手にしたままお隣さんは腑に落ちない様にそう言った。


「やっぱり不審な点が?」

私が垣根から身を乗り出してそう言うとお隣さんは少し離れた所から私を垣根から退けと言うようにシャベルでつついて


「なんで、そんな話を私の所に持ってくるんですか?」


と言った。


「だって、お隣さんなら解決出来るかな?って」


私がそう言うとお隣さんはムッとしたように

「何を勘違いしてるのやら」

と言って再び庭に穴を掘り始めた。


「ところで、お隣さん何してるんですか?」


私がそう言うとお隣さんはムスッとしたように

「ご覧の通り穴を掘ってます」

と言った。


「手伝いましょうか?」

私がそう言うとお隣さんはブスッとしたまま、首を振った。


そして、三分も経たないうちにお隣さんは作業を止めた。

垣根に乗りながらそのまま観察していると彼は家の中から風呂敷に包まれた壺を持ってきた。


一目見てそれが普通の壷ではないとわかった。

外は土がこびり付き、汚いと言うにも程があった。

そしてその壷は『早く……早く……もう、我慢出来ない…早く……』と呻いていた。


私は驚きながら見ているとお隣さんは無言でそれを先程掘った穴の中に突っ込んで土を掛け始めた。


私はゴクリと唾を飲み込んで

「そんなに危険なものなんですか!?」

と尋ねた。


「はぁ?」

返事はそれだけだった。


今日のお隣さんは本当に機嫌が悪いようだ……


お隣さんは完全に埋め終えると半分閉じた目で

「これ、タレですよ?焼き鳥とかの」

と言った。


タレ?


「最近のタレは呻くんですか?」

私がそう尋ねるとお隣さんは

「最近のは呻かない」

と言って欠伸をした。

そして、

「寝ます」

と言うとそのまま縁側に倒れ込んで眠りだした。


何でも、昨日の夕方にお隣さんの友人が古いタレを壷ごと持ってきて放置していたそうで、一晩中『埋めろ~埋めてくれ~寒い~早く~早く埋めろ~』と呻き続けられ寝不足になったそうだ。


タレが呻いていたのか壷が呻いていたのかは知らないがあれも一種の付喪神と言うのだろうか?


私も取り敢えず野菜庫で花が咲いていたジャガイモを付喪神になるかもと思い野菜庫に戻した。

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