第2話 死神遭遇。

昔、免許を取りに行った時に講師がこんな事を言った。


「焦って運転をするとな、それは一匹、一匹死神を同車させるようなものだぞ」


とても面白い比喩だと思ったのをよく覚えている。


「おはようございます」


急いで出掛けようとしているとお隣さんが掃き掃除をしていた。


「おはよう…ございます…」

私はその日妙にイライラしていた。


「あっ」

お隣さんは私を見ると驚いた様な顔をして家の中に入っていった。


何なんだ…


私はイラつきながら原付に乗る準備をしていた。

「お嬢さん!」

慌てたように出てきたお隣さんはそう言いながら私の首に首輪をはめた。

「何のつもりですか?!」

私は怒鳴った。

「外しちゃ駄目」

お隣さんは真剣な顔でそう言って私の手をギュッと握った。


その気迫に押されて私はその日それを付けておく事にした。


その日は何だか一日中イライラしていた。

運転は随分と気を付けるようにしたけれど何度も妙に危険な事が続いた。


そして、夕方帰る時だった…


突然目の前が真っ白になり、けたたましいブレーキ音が私にぶつかった。


目を開くと、私は信号に止まっていた。


白昼夢だったのか?


私は不思議に思いながら首に手を当てた。


「あれ?」


朝、お隣さんが付けた首輪が無くなっていた。



「おかえりなさい」

バイクを止めてるとそう声をかけられたら。


「ただいま。あの、朝の首は--」

そこまで言うと

「持って行かれたでしょ?」

と当たり前の様に言われた。


呆然と頷くと彼は自分の首を見せて

「死神はね、首を持っていくんだよ」

と言った。


その首には包帯が巻き付けられていた。


「包帯が一番安いから」


お隣さんはそう言うとそのまま微笑んで道の向こうの方をみた。


そこには黒い影が居て「チッ」と舌打ちした気がする…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る