ババを残してはいけません。
ミヤザワユウ。
ババを残してはいけません。
「晩飯、どこ行くねん?」
ジョーはこたつに入って漫画を読んでいる。
「焼肉とかどうよ?」
タクもこたつで携帯をいじりながら、まずアイディアをだす。
「どこでもええけど、普通に決めんのはおもんないよな」
ケンヤは姿見鏡を見て髪型を整えている。整え終えてニヤニヤしながら、こたつに入ってきた。3人はいつも一緒にいる大学生グループだ。ケンヤとジョーは小学校からの幼馴染で中高、大学ずっと同じの親友だ。タクとは高校の時に出会い、そこからいつでも一緒にいる仲だ。
今日は大学が終わった後、ケンヤの家に集まっている。
「これで決めよか」
ケンヤがポケットからトランプを出して机の上に置いた。
「ひさしぶりやろ?いつぶりやろなぁ」
ケンヤが箱から出して、シャッフルをする。
「おお、ええな!」
「じゃあ、ババ抜きにしよ」
2人もノリノリで携帯をポケットに漫画を本棚にしまった。右からジョー、ケンヤ、タクの順番でこたつを囲っている。ケンヤはトランプを右から配り出した。
「ちょっとまて!……俺が配る」
ジョーの声が静寂になっていた部屋に響く。配り始めたケンヤを手を出して制した。2人は、またでたでた。といった呆れた表情をしている。ジョーは疑り深いところがある。なんでも自分がしないと気が済まないたちなのだ。
「ここから戦いが始まってるからな!」
「わかったよ、ほら」
トランプをもう一度集めてジョーに渡す。
「……ここでどうやって細工すんねん」
呆れた顔でタクが聞く。
「いや、ケンヤはやりかねへんからな。あいつが用意したトランプやぞ」
おいおい……俺どんなふうに思われてんねん。
そう思いつつ、ケンヤの心臓はバクバクしている。実はババには油性ペンでケンヤしかわからないように印がつけてあった。前日にせっせと用意したのだ。
バレるなよ……バレるなよ……
ドキドキしながら必死に平静を装った。
「よっしゃ、配れたで」
ケンヤに17枚、ジョー、タクに18枚が配られた。3人はそれぞれ自分の手札を確認する。
「まず、そろってるのを捨てるんやったな」
ルールを確認してそれぞれ捨て始める。
くっ……ババ来とるやないか。まぁいいか、ババさえ渡してまえばもう引くことはない。あえてそろったやつ捨てんと時間稼ぎするか。
ケンヤは時間を稼ぐ作戦に出る。3人はそれぞれペアになっているトランプを捨て終わる。
「おし、始めるで。勝ったやつは晩飯決定権を得る、ババの奴は全額奢りやからな」
「わかってるわ」
タクが早く始めろと言わんばかりにつっこむ。
「まず、俺がケンヤの引くわ」
いよいよ晩飯決定を賭けた戦いが始まる。まずジョーがケンヤのを引く。
「おっ、いきなりそろったで。」
ジョーがペアを机の上に捨てる。
さすがにいきなりババは引かへんか。まぁまぁ、これからや。
ケンヤはまだまだ余裕を見せている。
「次は俺がタクのを引くんやな、あぁ、そろわん」
最後にタクがジョーのを1枚引く。
「……俺もそろわんわ」
「んで、また俺か」
ジョーがケンヤから1枚引く。
「1週回ってリアクションがあんまないけど、ババはどっちや?まだババは動いてへんやろ」
ジョーが揺さぶりをかけていく。2人をじっくり見て反応をうかがう。
おいおい、まだここでバレるわけにはいかへんぞ……
「俺ちゃうから、タクやろ」
ドキドキしながらタクに話を振るケンヤ。ケンヤの額には汗がにじんでいる。
「いや、俺やないで。俺らちゃうみたいやし、ジョーやろ?」
3人とも当然否定する。
「まぁわかってもおもんないし、次いくで」
ケンヤはバレないように、早くトランプを引こうとした。
無理やりやったか……?ドキドキ……全額奢るのはきついなぁ。バレてしまったらジョーは警戒してしまいよる。わかったらジョーは勘が鋭いからな……
「よっしゃ、そろったで」
ケンヤがカードを捨てて、タクがジョーから一枚引く。
「どっちかが持ってるんやからな、どっちや」
まだ俺やとバレてないみたいやな。危ない。よかった。
ケンヤは安堵の表情でペアのトランプを捨てる。しばらく何事もなく進んでいく。
ここからケンヤの時間稼ぎが功を奏して、お互いカードのそろわないまましばらく続いた。
くそ!!時間も稼いで結構引いてるはずやのに、ジョーの奴全然ババ引きやがらへん。
ケンヤは焦りはじめた。ここまでケンヤからババが離れることはまだ一回もない。
しばらく進み、現在トランプはジョー5枚、ケンヤ8枚、タク2枚
「次はタクやな、ここでそろったら次引かれて終わりやな」
ケンヤは焦りを必死に隠し、平静を装う。
……こいつがそろえば残り1枚になる、そうなったら次の俺の番で、最後の一枚引いてアガリ1抜けが確定してまう。
「そろそろアガらしてもらおか」
緊張の一瞬……タクがジョーから1枚引く。
「おっしゃ!!そろったわ!」
タクか渾身のガッツポーズをする。タクのアガリがここで確定してしまった。
「まじか!」
ジョーは口をあんぐりさせている。
うわぁ……ヤバいんちゃうか……
ジョーがケンヤから1枚引き、ケンヤがタクから最後の1枚を引いた。
「よっしゃ!!晩飯は最初から言ってた焼肉や。たっかい店さがそ」
タクがこたつから出て携帯で店探しを始めた。
始まって約20分が経ち、やっと1人が勝ち抜けをした。これでケンヤがババ持ちなのがジョーにバレてしまった。
「やっぱり、ババはお前やったんか、今までよう引かんかったわ」
「やるな、でもまだ終わってへんからな。ここからが勝負やからな」
おいおい……まじか。こんなはずじゃなかったのによ。ジョーが俺が配るとか言い出しやがるから。まだや、まだ終わってないぞ。
口こそ強気でいるが、頭の中では、本来100%勝てる勝負だったのにと唇を強く噛む。ケンヤは追い詰められていた。ケンヤの鋭い視線がジョーにつき刺さる。
「次は俺が引くんやな?」
ジョーがケンヤのトランプを1枚引く。ケンヤがタクの最後の一枚を引いた時にそろっていたので、トランプはジョー5枚、ババを持っているケンヤ6枚。2人の勝負なので、ババを引かなければ必ずトランプはそろう。
「俺は何引いても同じやからな。次ババ引いてもらうで」
ケンヤも1枚引き、ペアになったトランプを机の上に捨てる。そしてケンヤはトランプ1枚をわかりやすく上に突き出した。
「これがババや。このまま終わるのはジョーもおもんないやろ」
ケンヤがありきたりな駆け引きにでる。表情でバレないようにじっと見つめる。
「そんな今更やったって、引っかからねーよ」
迷いなく、突き出されてない方のトランプを引いた。
「よし、そろたで」
……ジョーには通じず。残りジョー3枚、ケンヤ4枚である。
なにいいいぃぃぃぃ!!!もうちょっと迷てもええやろ!なんでや……
ケンヤはジョーの迷いのなさに動揺が隠せない。しかしケンヤは引くしかない。当然トランプはそろう。ケンヤのトランプを捨てる手に力が入り、机に叩きつけた。残りジョー2枚、ケンヤ3枚。
「お前の考えてることくらいわかるわ!焼肉3人分は高いなぁ」
ニヤニヤ笑いながら負けるなど1ミリも考えていない様子だ。
くそ。腹立つか顔してるな……これはヤバいぞ、もしかして印がバレているのか??
イカサマがバレていないかの心配に心拍数が自然とあがり、背中に嫌な汗をかいている。
ケンヤはもう一度トランプを1枚突き出してジョーの前に出した。バレている可能性を考えてトランプを手で覆って裏面が見えないようにした。
「ん?なんでそんな隠すねん?まぁそんなことしても突き出したトランプが何かわかるけどな」
え、印はバレてないんか???まぁあれは俺しかわかるわけない。大丈夫なはず!
それでもケンヤはもしもを考えて手で隠している。ここでジョーがババを引かないとケンヤの負けが決まってしまう。ケンヤは祈っている。今回、ババは突き出していない2枚のうち右側にある。「この出てる方がババやわ。ここで終わらすより、もっと楽しもうや?」
呼吸をするように嘘をつく。
ジョーは疑ってくるはずや、なら突き出してない方を引いてくるはず。なら可能性は2分の1。
2人は真剣だ。ジョーは迷っていた。ケンヤを信じて突き出てるトランプを引き、ババを引いてしまうことになっても面白い展開に持っていくのか、疑って違うのを引くのか。しかしケンヤは嘘をついているので、突き出ていない方を引けばババの可能性がある。ジョーは迷う。タクも緊張して2人を見守る。店は決定したようだ。
「お前は嘘をついてる!」
ジョーはケンヤの反応をうかがう。ケンヤはジョーの鼻あたりを見て顔には出さない。
こいつの鼻、意外と高いな……
「早く引くんだ」
ケンヤはジョーの言葉には惑わされない。
「いいんだな」
「ああ、この出てるのがババだ」
ジョーが突き出ていない方のトランプを引く。
「はい、そろった。はい、1枚。はい、あがりー」
ジョーは最後の1枚をケンヤ渡してあがった。
……まじか。
ジョーとタクはハイタッチして喜んでいる。激闘は30分近く続いた。
「まじか、焼肉3人分っていくらやねん……」
「言いだしっぺが負けるのはあるあるやからなぁ」
タクは半笑いで答える。
「ジョー、なんで最後こっち引いてん!?」
ケンヤはジョーが突き出てない方を引いた理由を聞いた。
「あー教えたるわ、必勝法を」
「必勝法!?そんなんあるわけないやろ」
「後ろ見てみ。姿見鏡があるやろ、トランプうつってたで」
「え。」
ババを残してはいけません。 ミヤザワユウ。 @toraomaru
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