第2話、『 今想う、春の冷たき舞に 』

 淡く、限りなく聡明な青い空に、幾つかの花弁が、儚くも舞う季節になったとき・・・

 襟元を触る、どことなく懐かしさすら感じる、たわやかな風に、私は幾何かの哀惜を感じる。


「 出逢いがあれば、必ず、別れがある 」


 哲学的とも言える、彼の一言。

 事実であり、真実であるその言葉に付加された、瞋恚にも似た心情・・・


『 別れが嫌であるならば、出逢わなければ良い 』


 ・・極論は、葛藤の解決には至らない。

 されど、結論である。



 春空に舞う、無数の小さな花弁・・・

 散るのではなく、出発したのだと、彼は説いた。


 それぞれに夢を追い、それぞれの地に向け、それぞれの意思を抱き、旅に出る。

 心細く、不安ではあるが、未来に向けたる、大いなる旅立ちである。


 泥濘に着くものも、あるだろう。

 流れる河に入るものも、あるだろう。

 重なり合い、再び風に舞い、更なる旅に出るものもある・・・


 それが『 運命 』なのだ、と。


 己の姿を、小さな花弁に例えるなら、自身の行く先を左右するのは何か?

 幾何かの、小さな夢を託すのは何か?


 それは『 風 』。


 彼は、『 機会 』を、風と比喩したかったのだろうか・・・

 全ての連絡先を消去し、遠い、最果ての異国に行ってしまった彼に、その真実を聞く事は出来ない。

 だが、ただ1つ、分かっている事実がある。


 その『 風 』は、緩やかではあるが、『 冷たい 』と言う事である。



            『 今想う、春の冷たき舞に / 完 』

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