第8話 終章
「うーん、五」
「いいや、六だね」
「唯蓮が正解。…唯蓮に勝とうとするのは無謀だと感じませんか?」
あきれた声は桂花のもの。その手の盆には三人分のカップが並べられている。ただし、
「桂花、シドには水でいいぞ」
「ひどいな」
「ひどくて結構」
唯蓮の態度に変わりはない。ただ、シドはなぜかそれに安心している自分に気がついていた。この孤独な元・神様が少しでも楽しければそれでいいような、そんな気すらする。
ニヤニヤ笑っているシドに気付いた唯蓮は気持ちが悪いと吐き捨てて長椅子に転がった。照れているのだろう、顔が少し赤い。
「桂花、オペラを出して」
彼はそっぽを向いたままそう呟いて、シドに履いていた木靴を投げつけてきた。当然の如く命中して、中々に痛い。痛いが彼を怒れるはずもなく、木靴のあたった腕を撫でていると、桂花はそれを見て噴出すように笑った。
「はい、ただいま」
言って、彼は笑い顔を隠すように奥へと引っ込む。最近まで知らなかったが、依頼人の確認に使っているオペラは単に唯蓮の好物なのだった。
「紅茶がおいしいな」
「お前、あの桂花が入れたんだぞ?」
あきれたような声でいいながら、唯蓮は体制を立て直した。タイミングよく、桂花がケーキを運んでくる。
フォークをつかみながら、唯蓮は背後を示した。
「桂花、客」
気付くのはいつも唯蓮。紅茶を飲む上品な仕草を眺めながら、シドは興味本位で背伸びをする。骨董で視界を阻まれているけれど、僅かに見える入り口にはなるほど、影が差していた。
扉が開く。今度の依頼人は…。
砂礫の王冠 ユキガミ シガ @GODISNOWHERE
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます