3日目

ピンポーン


お姉ちゃんを失った精神的苦痛と人と感情的に関わるという慣れないことをした私は自分で認識しているよりもかなり疲れていたらしく目を覚ますともうお昼をとうに過ぎていました。


ピンポーン


慣れてだいぶ感じづらくはなりましたが部屋に立ち込める腐臭はより強くなっており生活の質が著しく下がっています。早くお姉ちゃんの亡骸を引き取ってもらわないといけません。


ピンポーン


またお姉ちゃん以外の人と話をしなくてはなりません。お姉ちゃんなら私が半分くらい言葉にすれば私の言いたいことを理解してくれていたのに、なんであの人たちはわかってくれないのでしょうか。お姉ちゃんが完璧な存在だからそれと比較しては失礼ですし、私なんかが他人様に何かを思うことすら無礼ではあるのですが。


ピンポーン


チャイムの音がしつこいです。お父さんもお母さんも留守にしているのでしょうか。それならばいつもお姉ちゃんが出てくれるのに。


ピンポーン


あ、お姉ちゃんはもう死んでいるのでした……


ピンポーン


私はもう随分待たせてしまっていることに申し訳なさを感じて寝巻のまま玄関を開けました。するとそこには十人くらいの高校生くらいの歳頃の人たちがいました。

皆さんはお姉ちゃんのご友人のようです。


「お、お待たせし……」


私が言い終わるより前に姉の友達たちは口々に色々なことを喚きだしました。

やれお姉ちゃんをどうしたの、なんで出ないんだの、今日は洗いざらい喋ってもらうだの、お前を殺してやるだの、そもそも姉が死んだのは本当なのかだの。

私はとても怖くなって百聞は一見に如かずとの言葉通り姉のご友人たちと私の知り合い一人を家にあげることにしました。


家に一歩踏み入れただけで彼女らは鼻をつまみ酷い臭いがすると言います。人の家を何だと思っているのでしょうか。とはいえ私はともかく姉はこの臭いの中で暮らしたことはありません。考えてみると今はもう私(と両親)しか暮らしていないのだから蔑まれても仕方ないのかもしれません。


私と姉の部屋だった場所に案内し死体を見せると何人かが吐いてしまいました。かわいそうに。このような人たちにお姉ちゃんの姿を見せてしまって申し訳なくなりました。

皆さんが嘔吐すると同時に私が姉を殺したという言葉を理解してくれたようで先達の教えには頭が下がるばかりです。


死体を見たご友人たちの反応は様々でしたが姉を殺した私を殺そうとするものととにかく私のような悪魔から姉の死体を取り返そうあるいは性的興味から姉の死体を手に入れたいというものにわかれました。私はどなたに姉の亡骸をお渡しすればよいか決められないし、私を殺そうとする人たちも誰が私を殺すのか決められないようで、優柔不断な私たちの間には話し合いの余地が生まれました。


話し合いの結果としては今この場で争っていただいてその勝者に思い通りにしてもらおうという形になりました。


「はい、では、話し合いの通りに、皆さんには私の姉のために争っていただきます」


私がそう宣言すると彼女たちはこの狭い家の中で争いを始めました。じゃんけんやトランプのゲームなどで決めようとしようとした人が何人かいましたが最終的には感情の高ぶりから暴力に発展していきました。


「ああ……」


私の知り合いの優しい方は暴力の才能はなかったようで真っ先にやられてしまいました。それからはより凄惨な暴力が行使されあまりのひどさに目を覆っているとそのうちに勝者が決まったようでした。


勝ち残ったのは昨日も家に来ていただいた、犯人を必ず殺すとおっしゃっていた方でした。私の完璧で最高の姉を殺すなどという最低最悪の存在には死以外に与えるべき罰はないと思い共感していたので私は少し嬉しくなりました。


「覚悟はいいな、妹」

「はい、覚悟はできています」


私はその方に連れられるがまま姉の亡骸と死屍累々の我が家を後にしました。











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