第6話 バッドエンド
俺の問題発言から一週間後、学校は既に夏休みへと突入していた。
必然的に部活が無くなり、俺達が集まる時間も無くなるものだと思っていたが、海野先輩の提案により、俺達は学校で天体観測を泊まりで行うことになった。
男女で泊まりなんて学校が許すのか? とも思ったが、そこは海野先輩が顧問に話して上手くやったらしい。
一体何をやったんだ。
ともあれ、俺達は初めて天文部らしい活動を行うこととなった。
もちろん全員参加で、俺も参加。
そしてこれが3つ目の間違い。
一週間前に嫌な思いをした時点で、今回の泊まりイベントは空気を読んで辞退するべきだったんだ。
でもその時の俺は、間違い続きで自分を客観的に見れていなくて、行かないなんて選択肢を考えることができなかったんだろう。
それに理由もなく桐生達の誘いを断る自信が無かったとも思う。
当日。
俺達は夕方ごろに学校に集合し、天文部の部室で持ってきたボードゲームなどをして時間を潰した。
そして日が暮れ、夜が近付き星が姿を現わし始めた頃、屋上に出て星の観測を始める。
一応、顧問の先生も学校の宿直室で泊まるということで付き添いできていた。
「月がこんなにもハッキリと見えるんだな……」
「火星が近づいた時なども、肉眼でも見ることは出来るが、望遠鏡で見た方が感動は大きいだろうね」
「んじゃあ夏の大三角形とかも見えるんですか?」
「もちろん。今日みたいに天気が良いのが大前提だけどね」
「私も知ってるよ夏の大三角形! 中学生の時に見た!」
めっちゃ天文部っぽい。
この数ヶ月で初めて望遠鏡で星を見た。
そもそも活動が夕方までだから、星を見ることができないのが問題なんだけどな。
充分に天体観測を満喫した俺達は部室へと戻っていった。
「なるべく早い内に消灯すること。それとお前らは自分の寝床に戻れよ。くれぐれも間違いを犯すんじゃねーぞ」
「分かってますよ。俺らをなんだと思ってんすか先生」
余計な一言を残して顧問の先生は宿直室に戻っていった。
さすがに男女同じ部屋というのは許可が下りなかったので、女子は部室、男子は柔道場で寝ることとなった。
ただ、まだ時間は21時で寝るには早いので、部室で4人でダベることになった。
ただダベるだけなのに、楽しい時間というのは過ぎるのが早いもので、気付けば23時を回っていた。
(あ〜すげー楽しい時間だなぁ)
「……そろそろ寝るか」
桐生が口火を切るように呟いた。
「そうね」
「ええ〜! いいじゃんもう少し遊びましょーよ!」
「私もそうしたいけれど……明日はお昼からアルバイトがあるから、夜更かしは出来ないの」
「11時も回ってる」
「私も用事があるしな〜。それに、いつでもまた遊べるよ! だから今日はもう寝よう!」
「…………なら仕方ないですね」
さすがに全員からそう言われれば、これ以上食い下がるわけにもいかない。
俺は渋々ながらも部室を片付け、桐生と2階の柔道場へと向かった。
「では、また明日」
「おやすみ2人とも!」
「おやすみ」
「おやすみっすー」
柔道場に着くと布団を敷き、俺達は横になり電気を消した。
まぁだからといって直ぐに寝るわけじゃなくて、桐生と他愛ない話をしていたわけなんだが。
そうして気付けば俺の意識は途切れていた。
ーーーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーー。
ーーーーーー。
ーーー。
ー。
「ん…………うう」
変な時間に目が覚めてしまった。
布団が違うせいだからか、時計を見ればまだ0時30分で、たぶん寝落ちてから1時間弱しか経っていない。
旅行あるあるだ。
ふと、隣を見ると、寝ているはずの奴がそこにはいなかった。
「桐生……?」
布団に桐生はいなかった。
(トイレか……?」
そう思って俺はトイレに行くついでに桐生を探すことにした。
夜の廊下は気味が悪く、一人で歩くのにも勇気がいる。
(やっぱこえぇなぁ)
そして近くのトイレまでやってきたところで、ふと廊下の窓から中庭を見下ろした。
(ん? 中庭の芝生の所に誰かいる……?)
見たくなかった。
気付きたくなかった。
中庭の芝生の所に桐生、海野先輩、美咲ちゃんの3人が横になって星を見ながら楽しそうに話していた。
寝ていたはずの3人が、示し合わせたように集まって、俺を
3人だけで、だ。
それを見た俺は、かつてないほど胃と心臓が締め付けられ、せり上がってくる胃液をこらえつつトイレに駆け込み、そして。
吐いた。
「うぇぇぇ……はぁ……はぁ……」
『明日はバイトだから夜更かしは出来ないの』
「はぁ……はぁ……」
『私も用事があるしな〜。それに、いつでもまた遊べるよ!』
(……………………なんだよ!! クソォ!!)
感じた事のない感情が、心の中をぐちゃぐちゃにした。
俺の心は完全にポッキリと折れてしまっていた。
「やっぱりもうこの部活に俺の居場所は…………ないのかなぁ……」
気付けば涙を流していた。
3人に
最後まで期待していたのが馬鹿みたいだったこと。
今まで気付かないふりをしていた感情が、俺の胸を締め付けた。
もう俺は彼らと普通に接することはできないと思い。
そして。
次の日から、部活に出ることを辞めた。
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