第5話 2つ目の間違い
美咲ちゃんと話しながらも、桐生が来れば2人の意識は桐生に向くんだろうなって考えてた。
俺そっちのけで桐生にアプローチをかける2人と、それを苦笑いしながらかわす桐生。
そして、それを眺めてる俺。
もうね、気まずすぎるんだよ。
なんなのこれ。
この部屋4人しかいなんだよ。
3人でじゃれてたら1人余るじゃん。
〝だったら帰れよ〟って思うかもしれないけど、何度も言っているように邪険に扱われているわけじゃない。
桐生がいない時はこうやって話してるし、いる時でも話しかければ返してくれる。
桐生も困った顔をする時があるから、助け舟を出してやると同時に、俺の心の中のハイエナは「ワンチャン狙えるぜ!」とか騒いでた。
でもやっぱり、2人が俺と桐生と話す時の感じは明らかに違った。
そりゃそうだよな。
好きな人と話す時と友達と話す時。
対応が違って当たり前だ。
そもそもこの2人と知り合えた事自体、奇跡みたいなもんだし。
それでも俺が一筋の可能性を諦めなかったのは、置いていかれる疎外感と、桐生に対する多少の嫉妬があったからだな。
いくらお似合いの3人だからといって、部室で毎回イチャコラされれば、嫉妬の一つでもうまれるっつーの。
そんな自分に嫌悪感も感じるが…………。
その結果、桐生にアプローチをかける2人にアプローチをかける俺、みたいな変な構図が出来上がってた。
そうして今日、美咲ちゃんと話していた俺のテンションは何故かおかしかった。
今思い出しても分からない。
なんでそんなテンションだったのか。
だからずっと話し続けたんだ。
桐生が来ても、話し続けた。
だけどやっぱり美咲ちゃんは桐生の方に行こうとしたから……………………言ってはいけない一言を俺は言ってしまった。
「桐生なんか放っておいていいじゃん」
なんでそんな事を行ったのか分からない。
冗談で言ったのは覚えてる。
でも美咲ちゃんにとっては、冗談かどうかなんて関係ない。
「…………………………」
〝邪魔しないで〟
実際にそう言われたわけじゃないけど、彼女の顔は如実にそう物語っていた。
弁明したかった。
でも彼女に初めてそんな顔を向けられて、俺は胸がギリっと締め付けられて、言葉が出てこなかった。
かろうじて出た「ごめん……」という言葉は息を吐くようなもので、彼女に届いていたかは分からない。
きっとその時の俺は顔面蒼白だったに違いないだろう。
美咲ちゃんは何でもなかったように桐生の所に向かっていった。
恐らく桐生は何も気付いてはいないだろう。
その後の俺は、逃げるようにして家に帰った。
家に帰った俺は自分の部屋に戻ると布団に潜り込み、自分が言った愚かしい言葉を思い出しながら唸ってた。
途中携帯が何度か鳴っていたが、恐らく桐生からだと思った俺は特に内容を見る事なく、そのまま次の日まで携帯を開いていない。
今日の事に頭を抱え、明日から部活に行きづらいなんて色んな事を考えて、飯も喉を通らなくて。
そして次の日、同じクラスだから当然なんだが、桐生と会った。
「なんか用事があったなら一言言ってくれよ。気付いたらいなかったから心配したんだぜ?」
心配させてばかりだ。
勝手に自滅して、友達に心配かけて、何してんだ俺は。
「今日も部活来るだろ?」
すげー迷った。
今日も用事からあるから行けないって言おうかと思った。
でも。
「お前がいないとつまんねぇんだよ」
友達にそう言われて、行かないわけにはいかない。
桐生や海野先輩は何も事情なんて知らないし、美咲ちゃんにも非はない。
ただの俺の1人相撲なんだ。
勇気を出して行こう。
ちなみに、「ラブコメ送ってるお前がつまんないとか言ってんじゃねぇ」とか一瞬でも思ってしまったことは秘密だ。
俺の性格の悪さが出てるな。
放課後。
部室の扉の前まで行った俺は緊張した。
またあの顔を向けられて、逃げ出さない自信はあるだろうか。
しっかりと昨日の発言について謝罪することができるんだろうか。
色々なシミュレーションを行い、覚悟を決めて勢いよく扉を開けた俺はーーーーーーー拍子抜けした。
部室に入った俺に美咲ちゃんはいつもと同じように「やっほーキヨ!」と声をかけてきてくれた。
そして何も無かったように、いつもと同じように話しかけてきてくれた。
ガチで天使だと思った。
ガチでメシアだと思った。
単純に俺の考え過ぎだったんだ。
美咲ちゃんはあんなことで人を恨むような人じゃなかったんだ。
肩の荷が降りた俺はいつもの調子に戻った。
そこで諦めとけば良かったのに。
友人だと割り切れば良かったのに。
勘違いだったことに勘違いして、俺はまだ期待していた。
これが俺の2つ目の間違い。
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