第7話 しゅわしゅわする

 それから凛太朗はルンコを連れて、ボーリングとビリヤードのある複合施設へと繰り出した。


 ボーリングでは球を放し損ねて転倒したルンコ自身が球となってレーンを滑走し、ビリヤードではキューで女性のスカートを意図せずめくったり、誤って男性の股間を突いたりしていた。玉違いだった。


 やがて異界の獣のような低い呻き声が聞こえたかと思えば、ルンコの腹の虫だったためファミレスに赴くと、ルンコは特大ステーキをオーダーして、「にく、うめえ」と大声で連発しながら速攻で平らげたのだった。


 ルンコの表情はころころと変わる。

 心底楽しくて嬉しそうな笑顔を見せたかと思えば、拗ねて口を尖らせてみたり、そしてまた変顔を繰り出してみたり。


 凛太朗は、ルンコが見せる様々な顔を写真におさめながら、なにやら目が離せなくなっている自分に気づく。


「しゅわしゅわ、する」


 食後にオーダーしたクリームソーダを一口飲むなり、ルンコは顔をしかめた。


「うまいぞ」と、ルンコはストローをくわえたまま言う。


「ぜんぜんうまそうな表情じゃないんだけど」


 凛太朗がツッコミを入れると、ルンコは首を横に振る。

 なんでもクリームソーダを飲むのは生まれてはじめてらしい。

 こういう飲み物がない国の出身なのだろうか。


「これは、くせになるかんじだ」


 ルンコはまた一口飲んでから、わずかに舌を出した。


「すーごくあまい、でも、ちょっといたい」


 赤い舌先と、薄くてやわらかそうな唇に、妙に目を奪われて、凛太朗は思わず視線を泳がせる。


 わずかな沈黙があり、それからルンコが不意に笑う。


「こんなのってうそだよね」


 はじめ何のことかわからなかった。

 ルンコが人差し指を立てて、天井のほうを差している。

 そこで凛太朗はようやく、有線で例のヒップホップが流れていることに気づいた。

 ──一生忘れないぜオマエのこと。あの耳障りなフレーズ。


 ルンコに同調しようとして、けれどなぜか言葉が出ない。

 自分の感情をうまく捉え切れないまま、凛太朗は曖昧に頷いて、グラスの水を飲み干した。

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