第4話 自称、未来人
「ちがう、せかい……?」と、凛太朗はごくりと唾を飲み込む。
「違う世界ていうか時空ていうか……あたし、未来からきた!」
なんと自称未来人である。
つまり彼女は、絵に描いたような電波というわけなのだった。
言動がおかしいと思ってはいたが、まさかここまで重度とは。容姿がなまじ可愛いだけに残念すぎる。
彼女が続けざまに語ったのは、こんな電波的生い立ちだった。
「遠い遠い未来、今からざっと五百年くらい先の世界から、あたしは、やってきたんだよ。地球のそばにつくった人工天体、あたしのおうちはそこにあって、おとうさんとおかあさんと、なかよしこよしで暮らしてた。でもでも、すごーくおおきな戦争があって、すごーくはげしい新型爆弾がスパークして、地球はズタボロ! あたしのいた星も、余波を食らって、めちゃくちゃになっちゃった」
「へええ……」
「しかも、爆弾のおそるべきパワーで、時空そのものが、ぐにゃっと、ゆがんじゃった。あたしは、そのゆがみに巻き込まれた、時空の迷子」
「はああ……」
「だから、あたしは、いろんな時代の、いろんな場所を、転々とする運命にある! 同じところにね、留まりたくてもね、本来あたしがいるべき時空じゃないから、不可能なんだよ」
「ほおお……。そ、それにしては、日本語うまいし、服だって全然今っぽいけどね……」
「言語は、脳内チップが、変換する。服の素材は、擬態テクスタイルを、つかっているよ」
聞かなければ良かった。
「ひとつ、おねがいが、ある!」
いきなり彼女は、はい! とばかりに手を上げた。凛太朗は思いきり身構える。もう勘弁して欲しい。
「ここに、おいてください」
「……いやいや待て待て待て」
おいてってどういうことだ。結婚でもしろってか。これだから電波というやつは。
頭を抱えてうんうん呻いていると、彼女はいきなり身を乗り出してきて、凛太朗の手をぎゅっと握った。押し倒さんばかりの勢いだ。
「え、ちょ、お、お、落ち着いて……じゅ、順序ってものが……」
「夜明けまでで、いい! それが、この時空にいられる、タイムリミット! 夜が明けたら、迷子のあたしは、また別の時空に、飛ばされる。それまではこの時空にいなきゃだけど、でもあたし、行くとこがない。そとは、とってもあつくて、死にそうだ!」
彼女は必死で訴えた。上目遣いでじっと凛太朗を見つめる。
「だから、夜明けまで、ここにいても、いい?」
その目は不安そうに潤んでいて、女子免疫力のない凛太朗に絶大なる効力を発揮した。
彼女が電波であるいう事実を越えて、それは凛太朗の胸に迫ったのだった。
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