第3話 残念ながら電波でした

「だ、大丈夫っすか?」


 三つ並べた椅子に横たわった彼女は、凛太朗に問われて、こくりと頷いた。


「そとが、あつくて、死にそうだ」


 彼女はしかめっ面で口をとがらせる。残暑とはいえ、まだまだ夏日が続いている。

 軽い貧血のようなものなのだろう、意識はしっかりしているから、さして心配はないように思われた。


 凛太朗は、空になった彼女のグラスに水を注いで、テーブルの上に置き直す。これで三杯目だ。

 少女はむくりと起き上ってグラスを取ると、一気に飲み干した。


「うまい。いきかえる」


 儚い美少女然とした容姿とは裏腹に、さっきから言葉遣いが妙に勇ましい。それに片言めいている。

 テニヲハなど文法面ではとりたてて間違いは感じられないのだが、言い回しやイントネーションは不自然だった。


 ハーフなのかもしれない。彼女は日本人にしては目鼻立ちがはっきりしているし、肌も白すぎる。


 と、不意に彼女が手を伸ばしてきた。

 凛太朗の持つ、水の入ったピッチャーに、その指先が触れる。


 怪訝に思いながらも凛太朗がピッチャーを差し出すと、彼女はそれをしっかりと両手で受け取った。

 かと思えば、いきなり注ぎ口に直接口をつけて、ぐびぐびと飲みはじめる。


「わ、ちょ、ちょっと……」

「うるおったぞ!」


 完全にドン引きしている凛太朗を尻目に、彼女は心行くまで水を堪能したのちに、にっこりと微笑んだ。

 ピッチャーを、凛太朗にぐいっと突き出すように返却して、


「行き倒れのあたしに、お水をくれて、とても、たすかった!」

「え、いや、はい」

「あたし、ココの勝手が、よくわからないから」


 凛太朗は彼女の言う意味が理解できなかったが、なんとなしに気圧されて、思わず首肯する。


 そして彼女は、いきなり爆弾発言を投下した。


「あたし、違う世界から、きた!」

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