第2話 出会いは突然に
ディスプレイを見れば、城島と表示されている。
同じ大学のわりと親しい友人なのだが、確か今は田舎に帰省しているはずだ。
「凛太朗、元気かあ」
受話器越しに、へらへらした声が聞こえてくる。
「おー電話なんて珍しいな」
「いやぁ、どんな夏休み送ってんのかなーって。どうよ、楽しんでる?」
「ぜんぜん。バイト超ヒマすぎて逆に辛い。……そっちは?」
訊ね返しながら、どうも嫌な予感がしていた。城島は用もないのに電話をしてくるタイプではない。
「おれ、彼女できちゃって」
「……へええ」
へんに声が裏返る。予感は見事に的中していた。これを言いたいがための電話だったのだ。
ちなみに凛太朗は、彼女いない歷イコール年齡である。
中学高校は男子校で、女子との関わりなど皆無だった。
共学の大学に心躍らせて進学したものの、これまでの女子免疫力の低さが邪魔をして、女友達の一人さえできていないのが現状だ。
だが城島だって、夏休み前までは凛太朗と同じ穴のむじなだった。
つるむのは男ばかりだったはずなのに、それがいまや彼女持ちとは。
「よ、よかったな。でもあれじゃん、そっちで彼女できたんなら、これから遠距離じゃん」
「そうなんだよ、会えないのはつらいよ」
深々とため息をひとつ。悦に入っているのがひしひしと伝わってくる。
「凛太朗もさー早いとこ女つくった方がいいって。バイト先で出会いとかないの?」
「出会いは……」
無え。
凛太朗が胸中で断言したその時、ちりん、と鈴が鳴った。喫茶店の扉に設えているものだ。
「あ、悪い、客きた」
慌てて電話を切った。
耳に痛い話を早々に切り上げることができて内心ほっとしつつ、入り口の方へと向き直る。
一人の少女が、そこにいた。
凛太朗と同世代だろう、この店には珍しい客層で、凛太朗は正直驚く。
──バイト先で出会いとかないの?
さっきの城島の言葉が脳裏を過ぎった。
淡いブルーのワンピースがよく似合う女の子だった。それに、凛太朗のクラスメイトの誰よりも可愛い。
小柄で華奢で、どこか頼りなげな儚い感じがする。肌は抜けるように白く、まるで日焼けしていない。
肩までの栗色の髪の、その毛先が額や首もとに少しだけ張りついていて、汗ばんでいるのがわかる。
「のど」
彼女は扉の前に突っ立ったまま、熱に浮かされたような表情で、ぽつりと告げた。
小さな子どもみたいにか細くて、どこか甘い声だった。
「のど?」と、凛太朗は繰り返す。
彼女は凛太朗を見つめていた。薄い唇がそっと開く。
「かわいた」
そう呟くや否や、彼女はまるで床にキスでもするように、顔面から盛天にぶっ倒れた。
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