第27話 空白《ブラックアウト》

「悪いけれど、あんたの役には立てそうもないよ。でも、アリスのことで何かわかったことがあったら、真っ先にあんたに連絡すると約束する。あんたがアリスと再会できることを願ってる」

「ありがとうございます。お話しを伺えて良かったです」

「もしもアリスに会えたら――たまにはうちに顔を出しなって言っておいておくれ」

 

 僕は、マダムの最後の言葉を思い出しながらファムファタールを後にした。

 アリスに繋がる手がかりが何か掴めるんじゃないかと期待したけれど、結果としてアリスに繋がる手掛かりやヒントはなにもなかった。


 それでも、僕はこの場所を訪れて良かったと思った。

 僕がそばにいなかった間の――空白の期間のアリスのことを知れてよかったと思った。


 僕が眠っていた八年の歳月を、欠けてしまった時間を、アリスの足取りを追うことで少しずつ埋めているようなそんな気がした。空っぽのカップを少しずつ満たすように。

 それは、かつて僕とアリスが二人でやっていたこと。

 僕の空っぽのメモリを、僕とアリスの二人で埋めていく――そんな心温まる共同作業を、再びなぞっているような気がした。


 だけど、僕は急いでアリスに再会をしなくちゃいけない。

 僕が無断でファムファタールを訪れたことは、遅かれ早かれウカやミケに、そして女性省に知れるだろう。そうなれば、僕は間違いなく機能停止にされるか廃棄処分される。


 僕に残された時間は少ない。

 その時間を、僕は有意義に使わなければいけない。


 だけど、いったいこれ以上どうやってアリスの足取りを探れば?


「ねぇねぇ、そこの可愛い男の子?」

 

 路地を歩いていると、またしても不意に背中に声をかけられたけれど、僕は相手をせずにそのまま路地を歩き続けた。どうせ、僕をどこかの店の「擬似男性ファルス」だと勘違いしているのだろうと思った。

 

 そこで、僕の意識は途絶えた。

 まるで、真っ暗なトンネルの中に落ちていくみたいに。

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