第177話「戦争の開始、そして雷霆」


 「……」

 

 「……戦争の承認?! 」

 

 アンキャナーとの交戦で、ぶつかり合いダメージ状態から復帰したクハンダーは、唐突に行動が止まる。

 

 「……? 」

 

 アンキャナーはその様子を知ってか否か、攻撃の手が止まった。

 

 (仲間との交信か? )

 

 まるで何かと交信する仕草を見せるクハンダー、相手は地下で交戦中のエピファネエースのようである。

 

 「……エピファネエース、製造中の全ゼウスタイプの戦闘準備? 本気ですか? 」

 「母艦ゼウスオロマズデスに通達! ZPD(ゼウスタイプ・ファントムドローン)1号から8号の発進」

 

 ******

 

 場面は変わり……

 

 遥か上空に何やら浮遊する物体が有る、大型のドローン戦艦であり、古代生物アロマロカリスの様な奇抜なデザインをしている。

 「ゼウスオロマズデス」

 そう名付けられた母艦がある、由来は至上神ゼウスのペルシャでのゾロアスター信仰との融合した際の学説による総称である。

 

 そして腹部のハッチが開き暗闇の中、地下帝国に向けて8つの物体が投下されていった。

 それぞれがファントムドローンであり、無音のプロペラやイオンブースター等で飛行しながら地下帝国の入り口に向かって飛んでいく。

 

 ******

 

 視点は再びユナと紀伊達が居る地下帝国の奥地に戻る。

 

 「契約は成された、戦争だ……」

 

 ボロボロのプラモデルのボディが両手を広げている、憑依しているエピファネエースは高らかに宣言する。

 地下帝国の奥地でその言霊に重みを感じたユナ達。

 戦争の契約、それを示す霊糸回路の様な……黒い剣のモヤの様な。

 

 "禍々しい契約の剣"が紀伊の手に渡される。

 

 「うう、この霊糸回路は……」

 

 紀伊が手にした剣の形の霊糸回路、強い従属の契約が練り込まれていた。

 エピファネエースは契約の剣について語る。

 

 「本来、その霊糸回路はIS-BE(イズビィ)と呼ばれる人間の霊体の核を従属させるモノだ」

 「ファントムドローンが人間を狩り、抽出した魂であるIS-BEを従属させドローンに組み込む」

 「同じように敗北すれば、君達も動揺に従属してもらう様に作ってある」

 

 

 紀伊がエピファネエースに睨み付けて言う。

 激昂しているのか、声に恨みが乗っている。

 

 「こんな薄汚い契約、魂の冒涜以外の何物でもないのです!! 」

 「未来から来たとはいえ、何処でこのようなモノを扱える様になったのか、洗いざらい吐かせてやるのです!! 」

 

 「良いだろう、ではまた会おう、フハハハハ!! 」

 

 その言葉を受け取ったエピファネエースは笑い声を轟かせると……

 プラモデルのボディから抜け出て行ったのか、気配が失くなり。

 捨てられたプラモデルのボディは亀裂が走り、崩れ落ちた。

 

 「この地下帝国の全てをアイツにぶつけてやるのです! 」

 「全部隊戦闘準備!! 」

 

 「ハッ!!! 」

 

 紀伊が十傑集に指示を出すと、十傑集はその場から消える、彼等地下帝国防衛部隊はエピファネエース討伐に全力を注ぐ事になった。

 

 「紀伊ちゃん……」

 

 ユナの心境は複雑だった、自身の運命に翻弄されながら、巻き込まれる規模の大きさと、それを自分が受け止めきれてない不甲斐さに苛立ちを覚えていた。

 

  

 ******

 

 場面は地下帝国のメイン会場に移る。

 

 現在行われている地下帝国でのバトルゲーム「ディルムン」は大盛況だった。

 ライブイベントはポゼッションチューバーがファンを大きく奮い起たせ、各種バトルアリーナは亡霊と憑依プレイヤー達が互いの強化と弱体化を繰り返し、大きく盛り上がりを見せる。

 東軍と西軍に別れた戦いも、やや西軍有利で進み、ザジ達が居る東軍は以外にも劣勢だった。

 ここで首を傾げていたのはアンキャナーである。

 

 「おかしいな、戦力は我々有利だったんじゃないかな? ねえヤトちゃん」

 「私がクハンダーと殴り合ってる間に何かあった?」

 

 「知りません、アンキャナーはこのイベントに満喫し過ぎです、いい加減帰りましょう、ライブも終わったんだし……」

 

 アンキャナーの様子にご立腹のヤトちゃん、クソ上司に付き合わされて可哀想。

 しかしここでヤトの様子に何か変化があった。

 

 「……! 」

 

 「アンキャナー! 地下帝国の上空に、この時代ではあり得ない様な脅威的物体が……」

 

 ヤトの警戒を促す発言と共に、地下帝国の内部に響く大きなアラーム。

 ミニチュアの街に人間が迷い込んだ時に鳴る警報を脅威度1とするならば、このアラームは最高の脅威度を示す脅威度3のアラームである。

 

 「え? 何!? 何!? 」

 

 周囲に居る二依子やポゼ部の面々が慌てふためく!

 

 「なんだ! この警報!! 只の緊急事態じゃないぞ!! 」

 

 周囲のイベント管理の亡霊達が騒ぎ出す、そして侵入者エピファネエース打倒の通達が広まる。

 

 「一旦ディルムンのイベントを中止する!! 亡霊各員に通達!! 」

 

 「侵入してきた"未来霊エピファネエース"を撃破せよ!! 」

 

 強い口調で響き渡るオーダー、突然の事に憑依プレイヤー達も困惑している。

 

 「……アンキャナー!! 引き時です! 我々も退避の準備を!!」

 

 「う、うむ!!ヤトちゃん、つき合わせてすまないね」

 

 アンキャナーとヤトはプレイヤーに混じって、避難行動に移った……その時!!

 

 見慣れない大型のドローンがこちらに向かって飛んできているではないか!

 

 向かって来たのは無音プロペラとイオンブースターで飛ぶ、金属板を積層構造で張り合わせた、手足のあるタイプのゼウスファントムドローンだ。

 

 「ZPD01ディオス、これより攻撃を開始する……」

 「ケラウノス……発射!!」

 

 ディオス……古代アナトリアのゼウスの名称を名乗ったファントムドローンは、腕部が十徳ナイフの様な収納性のあるパーツを変形させ、砲身の様な装備を競り出させると……

 

 雷でも落ちたような放電現象を起こし、黄金色に光る先導する霊糸と共に……

 退避している憑依プレイヤー目掛けて、凶悪な雷の奔流を解き放った!!

 

 「……!! 」

 

 次々凪払われる憑依プレイヤーのボディ、余りの威力に防御の意味も無く無惨に焼け焦げ。

 唖然とする光景が広がる。

 

 「私と同じ電撃装備……」

 

 ヤトはケラウノスの威力を見て驚く。

 威力は彼女の本体である巨大霊体には劣るものの、単体の火力としては異常だ。

 そして、その足を止めたヤトに……

 

 ケラウノスの奔流が迫る!!

 

 「危ない!! 」

 

 咄嗟に二依子とポゼ部の菊名&愛華がバリアでヤトを庇う!!

 ……だが

 

 「あああ!! 」

 

 ケラウノスの威力は凄まじく、菊名と愛華の合体ボディも見るも無惨に打ち砕かれバラバラに。

 二依子のプラモデルボディも右半身が完全に吹き飛んで、戦闘継続は不能となった……

 

 「!! ……ううっ!! 」

 

 その様子を見るヤト、呆気に取られていた彼女だが……

 

 「フーッ!! フーッ!! 」

 

 大きな威嚇の声を出して、その巫女を思わせる様なボディに僅かな電撃を走らせ、ゼウスファントムドローンを睨んでいた。

 

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