第152話「紀伊ママと呼ぶべきか、ママ札と呼ぶべきか」


 カンチョウのツッコミの後、ザジが語る。

 

 「この状況が必然だとして......」

 

 今のユナの状況が未来からの札からの情景を一部閲覧出来る、つまり"霊体"であると言う必須条件を満たしている。

 そう言う事なら、きっと......

 

 「これは......もしかしたら」

 「滅亡をもたらす相手が"亡霊"だと言う意味なんじゃあ......」

 

 必然的にそう言う結論になる、生き霊や亡霊が認知出来る相手を模索すればこそである。

 

 「将来的に亡霊が人工衛星を乗っ取ったりして世界に影響をもたらすかもしれない......なんてシラが言ってたけど」

 「......そうまでして、世界を滅ぼす未練なんて持った亡霊が居るのか? 」

 

 ザジの問いかけに、ねぱたはちょっと困惑した表情で答える。

 

 「怪しい秘密結社とかのリーダーが亡霊してて、世界を滅ぼすのが未練とかで本当に世界が滅亡なんてしたら、その後に生まれ変わった時の地上は、もう地獄しかないやん」

 「大概の未練は生前の行いより生き方で、狂信的な未練で世界が滅びるような行動を起こすなんて......おかしいんやな」

 

 ねぱたが語る、亡霊は勢いで未練が出来るほど、未練の形は単純じゃない。

 ねぱたはまとめを述べる。

 

 「まあ実際はホンマに狂信的な亡霊が居るのも事実やけど、意味なく世界を滅ぼすなんて......ちょっと考えられへんわ」

 

 やはり、言うだけならどうとでもなる。

 結果的に、キャンパーのクルー達では議論が進まない。

 ユナも仕方なく議論の考察を止める。

 

 「やっぱり三日待とう......私もなんか上手く纏まらなくて、変な事を言ってたら、ごめんなさい......」

 

 ユナの謝罪にねぱたもクルー達も首を降って慰める。

 

 「せやな、ウチらで模索してもどうにもならんわな」

 

 こうして一旦この考察は打ちきりとなった......

 

 ******

 

 ディルムンの準備は着々と進んでいく、バトルフィールドの打ち合わせや、ボス役亡霊達の配置に関係する打ち合わせ。

 プレイヤー発注のボディの開発などでザジ達キャンパーの面々は多忙な日々を送っていた。

 

 「こんなに忙しくなるなんて! 思っても見なかったああ! 」

 

 ユナが機材運び込みの仕事でクタクタになって言う。

 

 「霊体は寝ないって言うけど、疲れてグロッキーになったら意識が若干飛ぶんですね! 勉強になりました! もう嫌ですけど! 」

 

 ユナがバテてると、レストルームに集合した面々が一同に集まってくる。

 

 「徹夜には慣れてるけど僕でもキツイね、今回は多忙を極めたよ」

 

 サーバールームからラマーが出てくる。

 

 「もうすぐ二依子達の打ち合わせも入るから、俺はポゼ部に連絡するよ」

 

 ザジは二依子達に連絡を入れる、このあとにアイドル衣装が届くとも知らず......

 

 「ユナちゃんお疲れー、ウチもちょっと打ち合わせ長くてな、もうすぐあれから三日経つとか信じられへんわ......」

 

 このねぱたの会話の通り、三日後の新月がやって来たのである。

 

 「はあああ? 三日ってこんなに早かったっけ? もう嫌、働きたくないでござる! 」

 

 ......そう言うユナの背後に気配が。

 

 「約束の三日なのです......」

 

 そう、背後には紀伊が立っていたのだ。

 

 「呼び出すより迎えに行くべきだと、母札に言われて来てみたら、この地下帝国で労働を拒否するとか言語道断なのです! 」

 

 「ひいいいい! 」

 

 鬼の形相の紀伊に縮こまるユナ、そして首根っこを捕まれ、ヌイグルミに放り込まれ、祭壇へと強制連行されていった。

 

 「うああん! 労働基準法を霊体に適応してえええ! (ズルズル)」

 

 紀伊が呼んだお迎えの軽トララジコンの荷台に乗せられ、ドナドナされるが如く、ユナはレストルームを後にした。

 ねぱたは出荷したユナに黄色いハンカチを降り、牛をみる目で語る。

 

 「ユナちゃん強く生きるんやで......」

 

 ******

 

 場所は再び紀伊の宮殿に変わる。

 

 「えっと......紀伊ちゃんに聞いて欲しい事があるんだけど......」

 

 祭壇にやって来たユナは、紀伊に札を仕込んだのが未来の自分かも知れないと言う事を言い出そうとすると。

 

 「未来の貴方が札を仕込んだと言うのなら、それは先程母札が私に教えてくれたのですよ......」

 

 「ええええ!! 」

 

 ユナは紀伊の返答に驚く、そして何気に余裕のない紀伊の様子が見てとれる。

 紀伊は真剣な眼差しで語る。

 

 「その札にとって母札の占星術での解答は、正しく"折り込み済み"なのですよ! つまりは未来の貴方が仕組んだ道しるべに母札が立ってると言う事なのです! 」

 

 「......え......? 」

 

 ここでユナは以前ラマーが言った危機管理の言葉を思い出す、これは逆に危機を先に見せた上で、出来ないはずの打開策を未来の自分が仕込んでいるのである!

 

 「未来の私、結構策士......! そりゃ未来なんだから当たり前か......」

 

 そして宮殿の奥から霊体の影が現れた......

 

 「あらあらこんばんわ、貴方がユナちゃんね、初めまして......」

 「私が紀伊の"母札"よ、"紀伊ママ"って呼んで良いわ」

 

 現れた紀伊ママと呼ばれる霊体、以下にもママっぽい大人びた女性で、母キャラっぽさをアピールするために髪を纏めて左の肩から胸元へ下ろしている。

 

 「ママ札がなかなかサーバールームから出てこないから、儀式の準備はこちらでやったのですよ、占星術の触媒の水盆も用意出来たのです」

 

 紀伊がそう言うと宮殿の儀式祭壇が、浅いプールのような水盆が準備されて、術式を思わせる文字で陣が敷かれている。

 

 「しばらくサーバールームでずっとディルムンの霊糸回路コードばかり作ってたから、古い術なんて久しぶりで久しぶり、失敗しちゃうかも知れないけど間違ってたらごめんなさいね」

 

 その言葉にユナは首をかしげる。

 紀伊がその疑問に答える。

 

 「仕方ないのです、ママ札はディルムンの回路やプログラムの全てを受け持っているのです、コードを打ち終わったら疲れて最低三日間は眠りっぱなしだったのです」

 

 「あーそう言うことかー(労働的理解)」

 

 紀伊の弁明にユナは正に社蓄を見る様な目で見ていた、将来的にプログラマーにはならないでおこうと誓ったのであった。

 

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