第153話「終末の獣の名前は......」


 祭壇は新たに霊力で満たされていた。

 儀式に使われる水盆には霊糸回路が張り巡らされ、水面が波打たない様に固定されている。

 紀伊ママが指示する。

 

 「そのままボディから出て霊体のままで、ユナちゃんはその盆の真ん中に立ってね、ああ......大丈夫よ札は濡れたりしないから......」

 

 「はい(おそるおそる)......霊体だから沈まないんだよね......」

 

 クマのヌイグルミからユナが抜け出す、やはり霊体には札が健在であり、ユナの霊体に張り付いている。

 

 「おおう......水の上に立ってるって以外に新鮮......」

 

 紀伊ママが霊力を放出すると霊糸回路が起動する。

 保存されていた古代の呪術が動きだし、水面が星空の様な情景を写し始める。

 

 「術を省略式で起動......昔の様になんたらなんたらと唱えると、すぐ忘れちゃって不安定なの、全部を霊糸回路でお任せで使うわ......」

 

 「凄い占星術なのに略式だらけで雰囲気ぶち壊しなのです、ママ札......じゃなかった母札はいつもこうなのです......」

 

 紀伊ママの術の内容に呆れる紀伊、だが術は正確に起動し、札に込められた霊力を解析し始める。

 ここで紀伊ママがユナに語りかける。

 

 「先に言っておくねユナちゃん、私は一定の周期で占星術での占いを行い、この地下帝国の情勢を担ってきたわ」

 「だけど何日か前に突然ユナちゃんの存在を激しく示すようになったの......」

 

 「つまり......"折り込み済み"の運命ですか......」

 

 ユナは紀伊の説明を思い出して言う。

 紀伊ママが語る。

 

 「その札が解りやすく言う所の"未来札"と言うのなら、未来のからの念は札の表層だけとは限らない......」

 「札の念の底に、別に念が居る可能性があるのよ......それと今から占いながら会話するわ」

 

 「なるほど......(よくわからん)」

 

 ユナと紀伊ママとの会話の最中、術が動作を始める。

 水盆がたわんで来る、波紋が波打つと......ユナの札から霊力が沸き上がり、光を放つ。

 

 ......

 

 そして水盆にはまるで記録映像の様に未来の情景が映し出された。

 ユナが再びその映像を真剣な眼差しで見て、同じく映像を見る紀伊が感想を言う。

 

 「これは......酷い有り様です......」

 

 「この景色は見るのが二度目だけど、今見ても地上が廃墟になってて......人影すらないよ」

 

 ふと紀伊の顔を見て語るユナ、やはり信じがたい光景で紀伊は愕然としている。

 

 「何て事なの......」

 

 紀伊ママも同様に、光景を真剣に見ているが内心驚いている様だ。

 

 そして......しばらく情景を見ていると、それは起こった!

 

 ......急に水盆が揺れだしたのだ。


「 !! 」

 

 水が渦を巻き始める、そして水盆の霊糸回路が巻き上げられ、ユナの手前で同質量の水の塊になる。

 

 「来た......」

 

 それは紀伊ママの術が示した相手の形。

 水盆の霊糸回路はその同質量の水の塊に取り込まれる様に、ゆっくり形を変えて......

 

 霊体のユナの対になるようにそっくりの水の塊になって現れた。

 

 「やっとお出ましの様ね......未来の"私"......」

 「「 さあこの状況を説明してもらいましょうか!! 」」

 

 ......

 

 返事がない。

 

 「あ......あれ? 」

 

 ユナの姿に似た水の塊は何も言わない。

 

 「あのー? もしもし? 未来のユナさん? 寝てらっしゃいます? 無視しないでー私! 」

 

 ユナのボケた問いかけにも反応しない。

 

 「......」

 

 そして、しばらく時間が経過する。

 

 「術が時間切れになりそうね......困ったわ......」

 

 紀伊ママも困惑している。

 水の塊は応答しないまま、もう術が持たないと思える位、霊糸回路が崩れ始めた......

 

 「ああ......もう効果がなくなって来てる......コラ! 私! 応答しなさーい! 」

 

 ユナが水の塊に大声で語ると......その時、声が聞こえた。

 

 「(ノイズ音)......お......か......」

 

 「 ......伊......お母さん......そ......こに居......ますか? 」

 

 その声はユナに似た少女の水の塊が発する。

 はっきりとは聞き取れないが、ユナと似ている声である。

 

 「紀伊ちゃんの......お母さん、そこに居ますか? ......」

 

 ノイズはしっかりと声になった。

 やや低めの声だがユナの声であった。

 紀伊ママが応答する。

 

 「え、ええ。 私はここに居るわ、どうして私を呼ぶの? 」

 

 水の塊のユナは崩れそうな状態で語る......

 

 「......時間がない......単刀直入に、言うわ......」

 「三日後のイベント、ディルムンに人間側のプレイヤーで参加する"生き霊に成り済ました未来霊"が居るの......」

 

 「そのハンドルネームは......」

 

 「 クハンダー 」

 

 「 エピファネエース 」

 

 「この二人を"撃破"して欲しい......」

 

 この未来からの声は、後に大きく揺れ動く"運命の波"を作る。

 

 

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