第140話「真・中二病剣士と呼ばないで」


 「凄い、バトルを行う闘技場に沢山の観客が! 」

 

 霊力を充満させたバトルフィールド、その中で行われているバトルロイヤル。

 正にコロッセオというべき戦闘狂の祭典である。

 

 「驚いたかい? ここではある方法で戦闘を何倍も楽しめる工夫が成されているんだ」

 

 店主はそういうと、フィールドの外を指差す。

 向けられたザジの視線、そこには霊体の抜けたボディ。

 

 「何で"抜けたボディ"が外にあるんだ? ......え! あれ? 」

 

 再び闘技場内部で戦うファイターに目を向けるザジ。

 外にある抜けたプラモデルのボディと"同じボディ"が、闘技場内部で戦っているのだ。

 

 「これは一体? 」

 

 疑問を投げ掛けるザジに店主は答える。

 

 「地下帝国最新の新技術で開発された"霊糸プリンター"で出力された疑似ボディだよ! 」

 「霊力をプールした闘技場でしか使えないが、ボディの無用な消耗も無くなって戦いの幅が広まったんだ」

 

 ザジはポカーンとした顔で見ている。

 だがすぐに思った事を口にした。

 

 「何かちょっと疑似ボディって、作成ボディの本質から外れてしまって味気ないんじゃあ......」

 

 言葉だけなら疑似ボディの戦闘には味気がない。

 ロマンを求めるなら憑依バトルが基準で良いだろう、だが戦っている彼等亡霊達はそうは見えない様だ。

 ......ここで店主は言う。

 

 「そう言う部分は抜かり無い、霊糸プリンターは完璧にボディの内容をスキャンする、精度は99.9%だ! (当社比) 」

 「ソレだけではない......この仕様により、ボディの"耐久性を犠牲にする"ほどの強大なスキルを使う事を容易にし、戦略の幅を増やしたのだよ! 」

 

 ソレを聞いたザジ。

 一旦改めて考え直す。

 

 「ソレって......単に......"自爆技"を容認するって事じゃないか!! (ガビーン! ) 」

 

 思わずツッコミのザジ。

 だが店主は更に詳細を語る。

 

 「これまでファントムスキルは二段階までが限界だった......、所謂ハイファントムスキルまでがボディとの調和に最適とされ、それ以上に霊体の力を引き出せば何処かしらパーツの破損を生む......」

 「だが闘技場では更なる高見に登る為に、この第三スキルの追及が成され、そしていつかその律動を御する決め手となる時が来ると私は信じているよ! 」

 

 意気揚々の店主、それを聞いたザジは、高見への可能性を感じてふと闘技場の試合に目を向けるが......

 

 ******

 

 闘技場では今、正にバトルのクライマックス。

 

 片方のプラモデル亡霊はもうボロボロで、遂に「決め手」を出さざる終えない。

 

 対する相手のキャラクターフィギュアの亡霊は追い詰めては居るが、反撃を異様に警戒している様だ。

 

 「これが俺の最後の一撃じゃあああああああ! (特攻)」

 

 闘技場のプラモデル亡霊が霊力をフル回転させて突撃、対するキャラクターフィギュアの亡霊も、知っていたかの様に同じ様な霊力の超攻撃で対抗する。

 

 「させるかああああ! 俺も最後の一撃だああああ! (突撃)」

 

 双方のぶつかりは激しい霊力の波動を放ち......最終的に。

 

 (チュドーン!! )

 

 大きな爆発が起こると、モニターに映る"draw(ドロー)"の文字。

 とんでもない「ぐだぐだなバトル」が終了のゴングを鳴らしていた。

 

 ******

 

 ザジがそのバトルの感想を述べる。

 

 「自爆と自爆が重なり......最強に(ぐだぐだ)に見える......」

 「いや待って、もうタダの......ネタバトルじゃない? 自爆ショーとも言えるかな? (錯乱)」

 

 その感想に店主はやや困った顔をしている、だが開き直って続く試合を見るように促せた。

 

 「今のはノーカン(ノーカウント)! 、ノーカンだとも......(何あの試合? 馬鹿なの? )」

 「気を取り直して、この先の試合は今回のバトルイベントに合わせたモノだ、きっと新たなる境地への開拓を見せてくれる、期待していいぞ! 」

 

 モニターに次の試合構成が現れる、「伝説の剣士杯」等という題目が掲げられていた。

 

 そして次々と控え室から現れる闘技場の戦士たち、プラモデル限定の多数生き残りバトルロイヤルなのか、登場戦士全てが近接特化の"剣"による装備構成で揃えられている。

 

 「君もきっと気に入るはずだ......このイベントはとあるライブ配信に映った"プラモデル亡霊剣士"がきっかけでね」

 「人間の憑依体相手に無双する姿が、この地下帝国の動画サイトで大々的に取り上げられたんだ」

 「その存在を冠する一大イベントだよ、参加者も沢山いて見応えあるぞ! 」

 

 店主の言葉は、ザジの"何か思い当たる感覚"に突き刺さる。

 

 ......

 

 (え......)

 

 ザジが固まる。

 

 とても強い焦燥感を感じとり、冷静に観戦するも、内心困惑するザジ。

 

 (ははは......まさか、まさかね......)

 

 そしてその試合が始まった。

 

 戦う剣士達は、各々のほとぼしる熱い霊力(パトス)を剣に込めて高らかに叫んだ!

 

 「「 見せてやろう!! この俺のオーヴァード・エッジを!! (ドン!! ) 」」

 

 背景が一ページ位真っ白に成りそうな、圧のある霊力で剣を構える剣士。

 

 「「今こそ!! 輝け!! オーヴァードエッジ!! ......光(ひかり)をおおおお!! 」」

 

 束だけの剣に透明なフィルムが刀身に成って、レーザーブレードを形成させる剣士。

 

 「「超霊重破斬!! (オーヴァードエッジ!! ) (ブッピガアアン!! )(効果音) 」」

 

 全身黄金に塗り変わり、とってもバリったパースの効いた構図で構える剣士。

 

 「「うおおお!! 俺自身がオーヴァードエッジになるんだ!! 」」

 

 自ら変形して巨大剣になる剣士。

 

 「オーヴァードエッジ! 」

 

 「オーヴァードエッジ! 」

 

 「オーヴァード!!......」

 

 「オーヴァ!!......」

 

 「オー!!」

 

 「オ!!」

 

 最後のは最早「オ」しか叫んでないが、この場にいる全ての剣士が次々に......

 

 オ ー ヴ ァ ー ド ・ エ ッ ジ を叫んだのだ!!!

 

 目を丸くするザジ。

 ......そして、中二病ノートを読まれたかのような、いたたまれない気持ちが溢れかえる。

 

 「「 /////// はああああああ!! ////// 」」

 「「 ////// はああああああああ!! ////// ( 赤面大爆死 ) 」」

 

 闘技場は正に盗んだ中二病を振り回す!!

 みんなで使えば恥ずかしくないが......

 

 ザジ君のライフはもうゼロよ。

 

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