第132話「激突! 方舟VS方舟 (後編)① 」


 二依子の行動発言を取ってか電波の感度を上げる為に、キャンパーの電波収集アンテナが伸びる。

 

 「霊糸収集型、電波感度アンテナ起動、二依子君......アプリを起動したまえ」

 

 「はい......憑依アプリ、遠隔モードで起動します! 」

 

 カンチョウの声に従い二依子が憑依アプリを起動させる、彦名札による肉体への定着化が進んだ二依子の霊体は、アプリ使用が可能になる迄に肉体との軛(くびき)が回復していた。

 

 「キャンパーに到着......っと、ここはレストルームね」

 

 キャンパー内部の通信室があるレストルームで、キャンパーの内包霊力を受けて形を成した二依子の霊体が現れる。

 

 二依子が使用した憑依アプリの遠隔モードは、開発したシラが残していた裏コードであり、以前にキャンパーからねぱたが送信された霊体送信アプリと連動するように作られたモノだ。

 

 当然送信先に霊体が保存出来る霊力が無ければ、エラーが出て使えない、ダニエル達のパルドワーカー社でも解析が難航していたが、ねぱたの送信事例によって使い方が確立した。

 

 「憑依するボディは......あ、さっきザジ君が使ってた、私のガールプラモデルがある、わざわざ置いていってくれてたんだ! 」

「ありがとうザジ君。」

 

 二依子がプラモデルのボディに憑依すると、アーマー装備を付けてエレベーターに乗り込んだ。

 

 「二依子ちゃん、エレベーターの上部ハッチが溶解してて使えないから上の作戦室から直接デッキに上がって......って、うわっ!! 」

 

 「 !! 」

 

 二依子と話すユナの霊体の声が途切れると、キャンパーに激震が走る!

 アラーム音が鳴り、照明が赤く変わる。

 

 「......まさか! 」

 

 二依子が振動に耐える。

 外では再び、鳥の巨大霊体がプラズマによるビーム攻撃が開始された!

 艦内温度が上昇する、二依子はエレベーターを動かして上部作戦室内に到着。

 そこにはユナは居らず、プラズマによるダメージで穴が空き、作戦室内はボロボロに荒れていた。

 

 「私はキャンパー下部の霊糸回路室に居るの、そこはもう危険だから......二依子ちゃん、上手く甲板に上がれる? 」

 

 ユナの声で二依子は天井を確認する、丁度大きく壊れた砲塔の入り口が見えて、甲板に登れそうである。

 

 「上がれるよ......隙間が空いてる、すぐにプラズマの霊糸を探すね......」

 

 上手く霊力で飛んで、甲板へと昇る二依子。

 

 「......酷い、なんて熱。」

 

 その上にはプラズマの焦点により火の海となった甲板の様子が広がっていた。

 

 「私のバリアじゃ、素体のボディ以外のパーツは守れないかもしれない......」

 

 ガールプラモデルのボディの装甲が焼けていく、動きやすい様にアーマーをパージする二依子。

 パージしたアーマーは無惨にも、焼けたチョコレートの様に甲板に張り付いていた。

 

 目の前に見える光景......

 それは輝くプラズマの奔流が、キャンパーのバリアに阻まれる光景の内側に位置し。

 例え阻まれて居てもプラズマの熱が、業火を彩る灼熱地獄。

 

 今にも迫り来るプラズマの奔流が、二依子の目には「太陽」の様に光り輝き、迫り来ようとバリアを掘り進む"決死の現場"である。

 

 「バリアの回路崩壊......来ます!! 」

 

 ユナのアナウンスが響く!

 崩壊する霊糸回路に合わせて、霊力結集用の別の霊糸回路が起動する。

 バリアのオートメーション化の回路ではなく、単純にクルー全員の霊力を束ねるという簡素なモノだ。

 

 「みんな行くぞ!! オールファントムパワー! コンバインド!! 」

 

 遂にカンチョウが号令を上げた!!

 

 バリアの制御回路の崩壊に合わせ、簡素な回路に切り替わる。

 バリア制御を行う為に、キャンパークルー達の霊力が強くバリアに流れ込んだ!

 

 「「 うおおおおおおおおおおおお!! 」」

 

 クルー達の叫びと共に、一斉に込められる霊力がほとぼしる。

 キャンパー周囲に虹色の波動が広がる!

 崩壊寸前のバリアが一気に強固なモノに生まれ変わる!

 そして僅かにプラズマの奔流を押し返し、鳥の巨大霊体がプラズマを伝わらせている先導霊糸を露出させた。

 

 「二依子! 行けるか!? 」

 

 ザジがバリアに力を込めながら、二依子に霊糸の切断を要請する。

 二依子は猛烈なプラズマの太陽の前で、剣を構えて準備する。

 

 「うん......行けるよ、ザジ君!」

 

 この機会は一瞬、たった一度のチャンス。

 何故なら、全員の霊力で強化したバリアが展開された後は勢いが落ちる。

 つまりバリアが貫通される可能性が十分にあり得るのだ。

 そして仮に成功してもビームの勢いが落ちただけで、プラズマの放射は継続している。

 バリアの内部にプラズマが流入するのは確実であり、二依子の今のプラモデルのボディは無事では済まされない。

 

 「......はは......あはは......」

 

 二依子の笑う声が聞こえる。

 

 「二依子ちゃん?! ど......どうしたの!? 」

 

 二依子の反応に驚くユナ。

 二依子はその後、声をあげて語る。

 

 「やっと......私、みんなに"お礼"を返すことが出来るよ! 」

 「このみんなのピンチ、......私の力で切り抜ける、ザジ君! 見ててね......」

 

 ガールプラモデルを操る二依子、ここでユナがあわてて問いかける。

 

 「ああ......どうしよう! ここじゃあ霊糸の"属性"がわからない! 」

 「二依子ちゃんなら亡霊の霊糸は切れるけど、マンイーターの霊糸だったら......」

 

 時限爆弾の切るコード、青か赤か......の様な危険な選択が二依子とユナの心を揺さぶる。

 迷うユナの様子を、二依子が吹き消す様に吠える!

 

 「大丈夫! このボディはまだ"ザジ君の霊力"が残っている! これを左の剣に! 」

 

 二依子の霊力コントロール。

 

 ガールプラモデルの左手に剣がマウントされ、装備パーツの剣に"亡霊の残留霊力"が収束される......

 

 「そして、私の渾身の霊力を右の剣にこめて! 」

 

 右の剣には、予備の簡素な剣のパーツがマウントされ......二依子の"退魔の霊力"が収束された!

 二刀流を構える二依子。

 標的に向かって飛び上がる!

 

 「いけええええ! 」

 

 縦に回転しながら、吸い込まれる様にガールプラモデルボディが「太陽」の様に輝くプラズマに飛び込む!

 大きく振りかぶった二刀の剣が、霊力の収束を解放し......

 過剰な刃(オーヴァード・エッジ)となって、二刀十字に振り下ろされた!

 

 「「 スピリット&(アンド)ファントム! ダブルクロス・エッジ!!! 」」

 

 亡霊の力と退魔(人間)の力、二刀の刃がダブルクロス......交錯する十字の霊力の軌跡を放ち!

 

 ......今プラズマを先導する霊糸に打ち込まれた!

 

 「「 ! ! 」」

 

 (......手応えがあった! )

 

 二依子が確かに感じるのは手応え!

 

 遂に、二依子の斬撃でプラズマの先導霊糸が切れたのだ!!

 

 ビームとして収束されていたプラズマは、光線状態から解き放たれる様に拡散し。

 蒼白い火炎放射となって辺り一面を燃え上がらせる!

 

 ......ここでキャンパーのバリアは、一時的に力を失った。

 

 「......みんな、後は頑張って......」

 

 二依子の憑依していたガールプラモデルは、霊力を使い果たすと......

 

 蒼白い炎に包まれ、消えてしまった......

 

 ******

 

 場面が変わって、二依子の部屋。

 

 二依子がボディを失った為、憑依アプリから解放されると。

 キャンパーとの中継を確認する為、ノートパソコンの画面を見るが......

 

 NOsignal (ノーシグナル)

 

 ......の文字が画面に出ていた。

 

 ******

 

 

 

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