第123話「黒歴史よ今再び」


 ボコボコと海面に水泡を浮かべ、犬の巨大霊体が沈んでいく。

 暫くして海面に顔を出したが、その姿は明らかに縮んでいた。

 

 「ギュオオオオオン!! 」

 

 犬の巨大霊体が叫びを上げる!

 海面に浮かび上がった車のタイヤや、取り込んだと思われる部品が水中に散乱している。

 正に溶けているのか、「重荷」になっている荷物を外して、沈むのを回避しているのである。

 

 「驚くほど自然界の体霊からかけ離れた存在だな、式神の様な従属霊でも嫌う近代的な改修を平気で行うとは......」

 

 安倍みちかが語る、異様な相手の正体に戸惑いを隠せない。

 

 「なんと言うか、これではまるで"サイボーグ霊体"なのじゃ! 機械を取り込んだ霊体なんぞ、兵器にも見えて気持ちが悪いのじゃ! 」

 

 ちょっと前に式神をプラモデルにぶちこんでいた人の言う言葉ではない。

 ......が的を得ているのか安倍みちかが、妹である頭目の肩に手を添えて言う。

 

 「だが海はそうは行かない、奴の住む世界ではないのだから、ああして霊体が溶け始めていると見て良い......」

 

 犬の巨大霊体がどんどん小さくなっていく......

 そして最早、人の大きさ程度まで縮小した時、海面が音を立てて揺れる!

 

 「遂に倒したか......ってなんじゃ? この音は? 」

 

 頭目が不思議に海面を見つめる、何か海面に揺れる影が見えた......その時!

 

 「 むっ!? 」

 

 安倍みちかが反応する、水しぶきを上げて何か、巨大なモノが海面から飛び出したのだ!

 それはかなり大きなモノ、列車程の長い何かが突如、海中から現れたのである。

 

 「んな!? 」

 

 頭目が目を丸くして、おったまげた。

 姉妹二人が後ずさる、その巨大な影は大きく顎を開くと海面に溶ける犬の巨大霊を呑み込んだ!

 

 その巨大な影は海蛇......

 

 蛇型の巨大霊体である!

 

 「未確認の巨大霊体! 犬の奴を食らったのか!? 」

 

 慌てる頭目達を尻目に、海蛇の巨大霊体は長い体をうねらせて、海の底へと消えていった。

 

 「海中での活動圏を持っていた巨大霊体が居たとはな、だが犬の方を回収していったと見て良いだろう」

 「......犬をあのまま崩壊させておくと、余程不味いモノが出てくると見た」

 

 そう言うと安倍みちかは大橋前の鳥の巨大霊体を見て言う。

 

「つまりソレを知るには、アレを打倒せねばならんと言う訳だ......」

 

 視線の先の鳥の巨大霊体は、未だ橋の入り口で鎮座している、大きく胴体を膨らませ、口から蒸気を発しているようだ。

 

 「N型(鳥の巨大霊体)は未だ動かず、体内の熱源増大中......」

 

 頭目は変わり果てた鳥(舟)の巨大霊体を見て言う。

 

 「もしかして、飛べなくなってしもうたのかのう? 」

 

 その言葉通り、鳥の巨大霊体の羽根は這いずり移動するために、始祖鳥の羽根の如く鉤爪が生えており......

 四足動物の様な移動をしていたのである。

 ここで安倍みちかが言う。

 

 「列島上空を飛んで居たときに、自衛隊による対空ミサイル攻撃を受けたのだ」

 「着弾は回避したが、飛ばない方が良いと判断したのか徳島の山間に逃げ込んだ」

 

 頭目がそれを聞いて驚く。

 

 「ミサイルに狙われると言うのは以外なのじゃ、んで着弾も回避出来た時点で......もう実体と霊体を共有したトンデモなんじゃが......」

 

 「みちよちゃんの言う通り......本当にサイボーグ霊体ね(ニッコリ)」

 

 返答した姉上、安倍みちかはなにやら不敵な笑みで頭目に微笑みかける。

 

 「......? 姉上? 」

 

 頭目が何か青ざめた顔をする、嫌な予感......そう言う危機感が背筋を通る。

 

 「N型が動き出す前に、みちよちゃんにやって欲しい事があるのよ? 」

 

 そう言うと、安倍みちかは何やら指示を飛ばして頭目の部下達に何かを用意させて居る。

 頭目は「何じゃ? 」と不思議な顔をしていたが、黒服達が持ってきたモノを見て固まった。

 プラモデルである......

 

 「は? 」

 

 「この間の試合はずっと見ていたわ、みちよちゃんの勇姿素晴らしかったわ」

 

 安倍みちかの言葉に、頭目は思考が停止してしまっている。

 安倍みちかが続けて言う。

 

 「ヴァリアント・ドーマン! ミチヨ・アシヤ出撃する! (頭目の声真似) ブッピガアアアン! (効果音声真似)」

 

 その姉の声真似で頭目の顔が耳まで真っ赤に変わり、涙の海に目が泳いでいる。

 

 「はあああああああああああ!!!! 」

 

 暴かれる黒歴史!

 余りの恥ずかしさに頭目は、のたうち回り、転げ回る。

 そして問う。

 

 「まさか......皆の前で......これに乗れ(憑け)と......(ワナワナ)」

 

 「そうよ、中継のヘリだと攻撃されるかも知れないから、それを使って逐一状況を報告して欲しいの、お願いね」

 

 「はい......(断れるわけが無かった)」

 

 大橋の防衛圏が鳥の巨大霊体との膠着状態を溶く。

 攻撃火器(ロケットランチャー等)による一斉射撃後、式神部隊による突撃。

 これらの作戦の準備が成され、開始の合図を今か今かと待たれていた。

 

 「ヴァリアント・ドーマン、出撃! (ヤケクソ)」

 

 頭目の勇姿と共に、攻撃開始の号令が今、切って落とされた!!

 

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