第122話「明石海峡大橋防衛圏」


 「不味いのじゃ! この先には大橋の防衛圏じゃぞ! 」

 「巨大霊体の挟撃など食らえば、戦線が崩壊するのじゃ! 」

 

 慌てて黒服達が手持ちの拳銃を発砲する。

 乾いた音が鳴り響き、犬の巨大霊体が振り向くと、黒服達が更に急所を探って9ミリパラベラム弾を発砲し続ける。

 

 しかし霊体相手に効果はなく、虚しく弾丸が通り抜ける様子が無力感を誘う。

 

 「オオオオン! 」

 

 犬の巨大霊体が叫び駆ける、頭目達を後目に踵を返し、再び大橋の防衛圏目掛けて突っ走る。

 

 「追え! 追うのじゃ! あの大きさの霊体なら、ちとキツイがワシの式で何とか足止め出来る! 急げ! 」

 

 ボンネットが凹む車を走らせて、犬の巨大霊体を頭目達が追いかける。

 

 「式神"鳳"! 今こそ十二神将朱雀の意地を見せよ! 急急如律令! 」

 

 大きく霊体を拡大した式神「鳳」が走行中の車の横を飛ぶ。

 そして背後から犬の巨大霊体を攻撃しようと、霊力を燃え上がらせ加速し、鋭い足の爪で攻撃を開始する。

 

 「ギャオオオン! 」

 

 地に響く様なうなり声、犬の巨大霊体は牙を尖らせて鳳に食らい付こうと顎を振り回す。

 大きさは明らかに犬の巨大霊体の方が上だが、鳳の羽根が炎を纏い、犬の巨大霊体の体を焼き始めると......

 ダメージ効果が有るのか、羽ばたく鳳を引き剥がそうと暴れ始めた。

 

 「霊体の癖に燃焼によるダメージを避けるのか! 好機じゃ! 」

 

 指に血を滲ませながら、頭目の式神を操る剣印を振るう。

 更なる追撃で犬の巨大霊体を追い詰めようと、鳳が飛び掛かった。

 

 「まとわりつくのじゃ! 焼き付く場所がこやつの"急所"じゃ! 」

 

 銃弾は通り抜けていったが、火が通ると言うのであれば、体の何処からに"寄り代(よりしろ)"となる何かが有ると頭目は確信した。

 

 「核を成す呪物が有るのじゃ、益々自然の霊体かどうか怪しくなってきたわ! 」

 

 追い詰めようとする頭目達に、犬の巨大霊体は立ち止まり、何やら唸り声を上げてしっぽを立てる。

 

 「何じゃ? 威嚇かのう......」

 

 犬の巨大霊体のしっぽが膨らむと、先端から何かを放り投げる様にして飛ばした。

 

 「 !? 」

 

 投げたソレは車にぶつかり上空を舞う!

 頭目達はその投げつけられた物体を瞬間的に確認する。

 ......それは何処か別の場所で取り込んだ、ホイールの付いた車のタイヤだ。

 

 しかもタイヤには、釘やガラス片がビッシリとくっついていて不気味な様子。

 そして何より強い霊力が込められていた。

 ......頭目に悪寒が走る。

 

 「んなあ! ヤバイ! 皆伏せるのじゃ! 」

 

 するとタイヤが霊力で一気に膨張!

 何倍もの大きさに瞬時で膨らみ激しく爆散!

 釘やガラス片を激しく飛ばし撒き散らせ、車の外装が大きく変わる程の衝撃を放った。

 

 ゆっくり追従していた頭目達の車は、ガタガタと音を鳴らせてスピン。

 ガードレールにぶつかる事は無かったが結果的に停止する。

 犬の巨大霊体はそれを確認するや否や、一目散に大橋の防衛圏に向けて走り込んでいった!

 

 「いかん! 姉上! 危ないのじゃ! 」

 

 頭目の声も虚しく、大橋の防衛圏を背後から強襲する犬の巨大霊体。

 

 「やめろおおおおお!!、姉上に近付くなあああああ! 」

 

 頭目が激しく声をあげる!

 黒服達は声に応じて、車を急発進させて追い付こうとする。

 

 だがそれは最早無意味、犬の巨大霊体は嘲笑うかのように、強襲に逃げ惑う陰陽師達を乗り越えて行く!

 

「敵襲! 本陣後方に巨大霊体! 」

「術者を守れ! 結界を維持するんだ! 」

 

 防衛圏が激しく揺さぶられる。

 犬の巨大霊体は防衛圏の結界を背後から近寄り、術者である陰陽師安倍家当主、安倍みちかに襲い掛かった!

 

「グオオオオオオオ!! 」

 

「 ! 」

 

 犬の巨大霊体は鋭い爪や牙を実体化させて、安倍みちかに食らい付く!

 大きく開いた顎が安倍みちかの頭を捉え、一気に頭からかぶり付いたのである!

 

 「あああああ!! 姉上えええええええ!! 」

 

 頭目の悲痛な叫びが木霊した!

 犬の巨大霊体の顎に食らいつかれ、安倍みちかは腕をダラリとしている!

 そしてバキバキと音が鳴り、頭を噛み砕いた様な音が聞こえる......

 

 かと思いきや......

 

「急急如律令......」

 

 安倍みちかの体が光って、激しく散ったのである!

 

 「 !? 」

 

 食らいつかれていたと思われた安倍みちかは、突然消えて無くなり......

 周囲には人形の札(形代)が舞う。

 本陣を守っていたのは安倍みちかの造った擬人式神であり、本体では無い。

 犬の巨大霊体は手応えまで偽装され、完全に術中に嵌まったのである。

 そしてアスファルトの下から突き破って這い出る様に、安倍家の主要式神である巨大なムカデの式神が姿を表した。

 

 「悪行罰示神"六合(りくごう)"......急急如律令! 」

 

 六合は犬の巨大霊体に絡み付くと、動きを止める為の毒の液体を、相手の顔に吹き付けた。

 

 「馬鹿め、人間を侮りすぎだ......」

 

 犬の巨大霊体の背後から安倍みちかが現れる、式神ではなく本人である。

 

 「姉上えええ!? ご無事でしたか!! もう駄目かと思ったのじゃあああ!! 」

 

 追い付いた頭目が安堵のため息を漏らす、涙ぐんで喜んでいる様子。

 

 「私は無事ですよ、みちよちゃん、後でお仕置きですね......(ニッコリ)」

 

 「ひいいいいい!! 」

 

 喜びながらも半泣きの頭目、目の前には、式神六合に拘束された犬の巨大霊体があった。

 

 「姉上! こやつはどうするつもりなのじゃ? 」

 

 「どうもこうも無いわ、目の前に鳥の巨大霊体が控えてるのに、これを悠長に払う時間も惜しいの......」

 

 安倍みちかは剣印を構える、六合は拘束された犬の巨大霊体を引っ張り始め......

 

「このまま海に投棄しちゃいましょう......」

 

 その姉の回答に、頭目が驚き声を上げた。

 

「えええ! 姉上!? マジなのですか!? 」

 

「ええそうよ、彼らは海に投棄した方が霊体が海に溶けて分散するわ、だから海に入るのを避けてこの大橋渡ろうとしてるのよ? 」

 

 姉の以外な回答に、頭目は愕然とする。

 

「倒し方そんなんで良いんじゃろうか?...... 」

 

 そうこう言う間に六合が犬の巨大霊体を引っ張り、橋の下へと押し始め......

 遂には海面に叩きつける様に犬の巨大霊体を投げ落としたのである。

 

 

 

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