第121話「明石海峡大橋決戦」


 成層圏に落ちて消えた、シラの霊体が入った試験管を見送ったアンキャナーは一人......

 

 シラの最期の言葉に、遅れて聞かれることの無い返事をする。

 

 (恩敵か......だが君達に我々を止める手立てなぞ存在しない。)

 

 (だが、我々を察知できる存在もいるんだろう、君の言った自然界の霊体がそうだろうな......)

 

 (ふむ......ならば)

 

 (アセンションビーストを使って、探りを入れてみるのも良かろう......)

 

 そう言うとアンキャナーは再び、サテライト内部の暗闇に溶け込むように消えた。

 

 (彼等を乗せていた、鳥型ビースト......)

 

 (丁度飢えて居る様だし、霊波の受信が届く内に指令を送るとするか)

 

 黒騎士(ブラックナイト)衛星(サテライト)は、再び地球の周期を逆に回る軌道に戻る。

 

 遠点に向けて動き出した衛星は、最期の指令を送り。

 

 地球の地平線に消えていった......

 

 ******

 

 

 (......ザーッ)

 

 無線の音が鳴り響く。

 

 「こちら徳島自動車道、再び現れた巨大危険霊体N型が以前北上中! 」

 

 ここで語られる巨大危険霊体N型とは、シラを乗せていた舟型巨大霊体(アセンションビースト)の事であり......

 アンキャナーの指令を受けて行動を開始していた。

 

 再び陰陽庁の報告に現れた時には、醜い幼い鳥の姿をしている。

 

 「うずしおライン防衛式神部隊、壊滅!! 式神の霊力を噛られ術者が倒れる等、被害多数! 」

 「本部応答願います! どうぞ! 」

 

 (......ザーッ)

 

 「こちら本部、陰陽庁の安部(あべの)だ、N型は淡路島に入ったか? 」

 

 無線の向こうから女性の声が聞こえる、陰陽庁の責任者、安部(あべの)みちか本人である。

 

 「はい! 現在は鳴門海峡大橋を渡り高速を伝う様に移動を開始......神戸淡路鳴門自動車道を通り本州へ向けて北上中! 」

 

 「解った......よくやった、休んで良いぞ、後は此方で引き受ける! 」

 

 彼女は無線を切ると、眼下に展開する陰陽庁の式神部隊に通達する。

 

 「全術者、準備は良いな! 」

 「この明石海峡大橋で、巨大危険霊体を迎え撃つ! 」

 「総員! 急急如律令! 」

 

 掛け声と共に、沢山の式神が鳴門海峡大橋に終結。

 現代の百鬼夜行を体現すべく、結集したのだ!

 

 「百鬼とは行かないが、これでも日本中の倉から掘り出された式神達だ! 」

 

 「古き時代に多力(たじから)を失い、札の痕跡に人の霊力を注入して再生された式神ではあるが......」

 

 「現状の戦力の最高峰である、皆! 気を引き締めよ! 」

 

 安部(あべの)みちかの号令で、最期の式神達の防衛圏が始まった。

 ふいに彼女は思う。

 

 (......全く"アレ"から3日か......)

 

 彼女の言う3日とは、ザジ達亡霊達が、舟の霊体に乗り込んで天空に消えてからの、3日という時間である。

 事件にあった被害者達は、無事にアカウントハックされたアプリから解放され帰路に至り。

 運営会社も謝罪会見を開き、事なきを得た。

 

 被害に合っていた殆どのプレイヤーが、今回の事件の状況を霊体のまま把握していた事もあり......

 プレイヤー達の騒動にならなかったものの、世間一般の事件の評価は冷ややかなモノで。

 結果、本大会の無期限延期が決定した。

 

 巨大危険霊体の再出現は、その矢先の事である。

 

 「巨大危険霊体を目視で確認! 大橋前にて此方の様子を伺って居る模様! 」

 

 淡路島を北上した鳥の巨大危険霊(アセンションビースト)は、遂に現代の百鬼夜行の前に現れた。

 

 

 

 場所は離れ......

 

 黒い車が、別の高速道路の入り口から駆け込んでくる。

 中には黒服で身を包んだ者達が乗っていて、後部座席には見慣れた女性が座っていた。

 陰陽士の芦屋家の頭目、芦屋みちよである。

 

 「急げ! 舟の霊体が再び現れたのじゃ! 姉上の加勢に間に合わせんと、次はアレでは済まされんぞ! 」

 

 頭目の芦屋みちよは、以前の戦いで市中引き回しの刑は免れたものの、

 倉から持ち出した式神をAWAJISIMAチームに返す際に、かなり形を弄った事で大目玉を食らい。

 尻叩き100回と、激辛ペヤソグ一気食いを経験させられた。

 涙目で悶え苦しむ姿はとても周りの仲間に、愛くるしく移ったそうだ。

 

 「頭目様! アレを! 」

 

 「 ! 」

 

 黒服(小笠原)が指を指す、明石海峡大橋には沢山の式神が結集し、今か今かと迎え撃つ準備が成されていた。

 そして対面に姿を表す巨大危険霊体。

 

 「間違いなくあの時の巨大霊体じゃ! だがやけにヒョロヒョロじゃのう! 」

 「これはワシ達が、加勢に向かう意味が有るのか微妙じゃの! 」

 

 しかし、ここで頭目に虫の知らせがやってくる。

 何か別の気配が後方から感じ取ると、後ろを振り返り。

 背後の気配に注意を促す。

 

 「後ろじゃ! 何か来るぞ! お前達気を付けるんじゃ! 」

 

 頭目がそう叫んだ瞬間!

 車のボンネットが巨大な足に踏みつけられる様に変形!

 乗っていた車が軋みだしてフロントガラスが割れる!

 

 「うおおおお! なんじゃあああ! 」

 

 車を踏み越えて、何か"巨大なモノ"が通り抜けていったのだ!

 うっすらその姿が見えた頭目が、危険を察知して黒服にハンドルを切らせる!

 

 「コイツは......資料に見たやつじゃ! 」

 

 大きなトレーラー車位はある大きな影、そうそれは......

 

 "犬型"の巨大霊体である。

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