第120話「ニビルに金の空は在るだろうか」


 (......)

 

 (ふむ......なかなか言う、だが我々も元は同じ人類だ、次元のフェーズが違うだけだが)

 

 アンキャナーは冷静さを取り戻したのか再び表情が捕らえにくくなった。

 それを見てシラが言う。

 

 「同じ人類か、いいや私もこんな姿(亡霊)だからこそ、そのフェーズと言うのが覚醒と言うならば......」

 

 「 その進化工程は滅亡を意味する! 」

 

 シラが語る、彼はユナの札の記憶をある程度深く読んだらしく。

 覚醒の意味する結果を理解していた。

 

 (世界の覚醒は大きく人類の進化を促すものだぞ?)

 (君はその進化が行き詰まると言うのかね?)

 (今の人類の方がずっと行き詰まると思うが......)

 

 シラははっきりここで、滅亡の真相を解き明かす為に語る。

 

 「霊力世界の消滅は......人間の覚醒は......」

 

 「「 霊力世界が守って来た、地球環境そのものを破壊する行為だ! 」」

 

 シラは確信を得ていた、ユナの札の記憶、崩壊世界。

 それは亡霊が地下で町を作り、霊力を満たして生活する。

 「人」が居ない世界。

 

 つまりそれは"居ない"のではなく"住めない"事に他なら無い。

 

 (......)

 

 (いつから君は、霊力世界が地球環境の防衛を行っていると理解していたのかね? )

 

 アンキャナーはシラに問う、シラははっきりとした意見を返す。

 

 「私達は前から世間から隠れて、亡霊で生き長らえる手段を考慮してきた。」

「そして霊力技術を知り得る為に、ネット上の亡霊の噂に聞いた、ある大型コミュニティに教団数名で潜入した」

 

 (ほう......)

 

 シラの話は以外にも、アンキャナーが興味を示している。

 シラは続けて語る。

 

 「そこは......"地下帝国"と呼ばれていた」

 「とんでもない大国だ、膨大な人数の亡霊が成仏までの間を優雅に暮らす......理想郷だ」

 

 それを聞くと、アンキャナーは何か空中に操作パネルを出してシラに言う。

 

 (......)

 

 (君達の住んでいた周囲を今、調べて見たが確かにそれらしきモノが確認された、こんな国があるとは......盲点だったな)

 (我々が地球にいた頃の国の形がこの世界でも存在足りうるとは! )

 

 (実に興味深い! ......ああ、シラ君の話は途中だったな、続けてくれたまえ。)

 

 シラはアンキャナーの興奮する様に驚くが、冷静に話を続ける。

 

 「潜入した地下帝国で、私は何故か存在を発見されしまい、捕まってしまったが」

 「その代わりに"帝"(みかど)と呼ばれたリーダーらしき存在に、意見を取り次ぐことが出来た」

 

 シラは淡々と語る。

 

 「その帝と言うのが、自らを"最期の完全な自然霊"と名乗っていた」

 

 「何故最期なのかと聞くと、彼女は過去に産み出された式神であり、自然界の霊力を束ねた存在であるが、時代と共にそれ自体が失われ」

 

「更に彼女(帝)以外の自然界の霊体は、文明と共にほぼ地上から消え去った事を聞かされた」

 

 シラはその時の最後に聞かされた話を口にする。

 

「そして自然霊の抜けた霊力世界の防衛部分は、人間の霊力の源である"直霊(なおひ)"で補われている......」

 

「この事を教えられ、私は帝に問いかけた、スパイである私に何故このような事実を教えるのか! と......」

 

 (ほう......)

 

 アンキャナーはとても興味深く、聞き手に徹する。

 

 「お前は近い将来、過ちに気付き嘆くだろうと......過ちに向き合ったのなら、旅路の先でこの事を思い出すといい......と」

 

 語り終えるとアンキャナーは拍手をしていた。

 パンパンと手を叩く様子は喜びに満ちていた。

 

 (素晴らしい先見の明だ、中々面白いぞ! 帝とやら! )

 

 (過去から生き長らえた古御霊が、未来から来た私に、このような運命の使者を送るとは! )

 

 「アンキャナー、私は気付いてしまった......皆を犠牲にしてたどり着いた事を苦に思う、そして......」

 

 シラはアンキャナーに、晴れた気持ちで語りかけた。

 

 「私は貴方と言う世界の終わりの代行者に、愚かにも唆(そそのか)された大馬鹿野郎だったと言うことだ」

 

 シラの言葉を聞き終えると、アンキャナーは改めて問う。

 

 (......)

 

 (シラ、君に今一度問う......)

 

 (もう一度、私に唆(そそのか)されてはくれまいか? )

 

 アンキャナーの"最期の問いかけ(スカウト)"にシラは......

 

 「フフッ......」

 

 「真っ平御免だ!! 」

 

 はっきりと言い切った。

 

 (やはりか......)

 

 アンキャナーはわかって居たが落胆は否めない、シラは元よりそう言う人間だったと諦めた様だ。

 

 「アンキャナー、貴方の目的は、人間を覚醒させる事だけが全てではないだろう! 」

 

 シラは気付いていた、アンキャナーは覚醒などと謳い挙げ、崩壊に導いた後に本当の目的が有ると......

 

 アンキャナーはシラの追求に対し、質問を出した。

 

 (そうだな......君は世界の霊力が無尽蔵だと思うかね? )

 

「人間がいる限り無尽蔵であると私は思う、人間が居る限りはね! 」

 

 シラの答えは、はっきりとしていた。

 

 (では、霊力が失われつつある世界は、どうやって霊力を取り戻したら良いと思うか? )

 

 アンキャナーはシラに質問で返す。

 

 「それは......不可能だ、人が住めない環境になれば、住める環境に作り直さないとどうしようもない」

 

 シラは、崩壊世界の修復を提言する。

 

 (いいや、よく考えたまえ......今、私はこうして失われた未来からやって来ている)

 

 「 ? 」

 

 シラは気付く、アンキャナーは開き直った様子に見える。

 

 (幸いタイムパラドックスの様な現象は起き得ないと解っている、何故なら我々の居た地球とは霊力の量が根本的に違う)

 (ここはあくまで我々の地球とは時間軸の全くの別モノ)

 

 (霊力の多い"異世界地球"と言うことだ。)

 

 「まさか!! 」

 

 シラはアンキャナーの計画と言うのが、理解し始めた。

 

 (つまり......)

 

 (我々の地球と違うなら、エネルギー源として活用しても何も問題は無い! )

 

 (この世界に楔を打ち込んで、我々の未来の礎になってもらおう! )

 

 シラは驚愕する、無責任だと感じるが、そもそも「外」の世界のモノに我々の常識では語れない使命があったのだ。

 

 「アヌンナキ......」

 

 シラは唐突に古代シュメール文明の神の名前を思い出す。

 

 (ほう......いい例えだ! )

 

 (アヌンナキは"金"を採掘するために地球に来た神だったな)

 (だが我々は"金"で世界を覆うなどという手間の掛かる事業をするつもりはない! )

 

 アンキャナーは大きく手を広げて、天を仰ぐ様に仕草をして語る。

 そしてシラの顔を見直す。

 

 (いいや......もしかしたら彼(アヌンナキ)も"金"と言うのは、あくまで例えで、実は霊力を生み出す人間が欲しかっただけかも知れんぞ! )

 

 (いずれにせよ、私にそこまで過去に遡るつもりは無いが......)

 (君の追求に答えて挙げたよ、これで満足か? )

 

 シラは最期になると思い。

 淡化を切った。

 

 「「ああ、十分だ! 世界の恩敵よ! 」」

 

 すると、叫んだシラが入った試験管の様な容器は、いつの間にか眼下に地球の大気圏が見える有り様になった。

 

 (お別れだシラ、君の願いを汲み取り"天国"に送ってやろう......)

 (地球の大気圏、このサテライトの侵入を阻害していた"扉"と呼ばれた巨大な霊力の殼......)

 (それが霊力世界の防衛圏であり、魂の行き着く先だ! )

 

 (君達が持ち寄ったアンテナが発した霊力で、少しだけ揺らいだ筈だからすぐに取り込まれると思うよ......)

 

 (それと同時に霊力防衛圏の詳細なデータも受け取ったけどね。)

 

 アンキャナーはシラの入った試験管の様な容器を、サテライトから切り離し......

 

 (......去らばだ! )

 

 地球の成層圏に放逐した。

 

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