第119話「それは知ってはいけない事だ」
久遠坂シラ、彼はPCによるネット全盛期のSEだった。
そして時代と共に技術も代わり、スマホアプリの時代に挟まれ一時職を失い。
再び勉強して職に復帰した頃には、過度の勉学による過労により倒れ。
一命をとりとめるも、心臓疾患を患ってしまった。
そんな彼が身体を失う直前で、個人公開したのが"憑依アプリ"だ。
失職中にネット上に現れた現在相対する存在、「アンキャナー」と交信した際に......
「解き明かせれば、天国に至る道を教えよう」
そう投げ掛けられた暗号のようなプログラムを受け取り、解析した結果、アプリの完成に至った。
アンキャナーは人類の正当な進化を定義する。
もし未来に記憶や性格をデータ化に成功したとして不老不死を得たとしても、それは「AI」であり本人ではない。
完全な本人が霊体から意思ある形で独立する。
そうして初めて進化すると言う。
そう言った言動が、まるでジョン・タイター彷彿させ。
狂信的に信仰する者が集まる。
シラと同じくして寿命幾ばくもない劇団員の「パープル」を筆頭に、七人の仲間が集まる。
アンキャナーはしばらく交信を閉ざしていたが、再びネット上に現れた時は、亡霊の寿命幾ばくもないシラ達の存在にとても良い理解を示す。
「君達に天国への道を示す、工程を確認して欲しい」
彼らには合成されたばかりの鳥の巨大霊体と、霊力の強い人間のリスト、アンテナの図面が与えられ。
......そして現在に至る。
「アンキャナー、私だけがここに来てしまったのか? 」
アンキャナーがぼやけた顔で答える。
(今ここに居るのは君だけだ......シラ)
この言葉はシラを悲しませたが、以外にもその様子から立ち直る。
「私の目的は絶たれた、今すぐにでも皆と同じく消えたい......たった一人でここに来る意味など無い」
その意思には"消える決意"が込められていた。
その様子を見るや、アンキャナーは提案する。
(君は皆の仇を討ちたいかね? 私なら叶えられるかも知れないが......)
アンキャナーの誘いはとても甘美に聞こえるが、シラは以外にも首を横に降った。
「私は彼等との勝負に敗北した、ザジ君に至っては過去を含め二度目だ......」
「あれほど社会の水面に石を投げる様な事をして、今更舞い戻り彼等を打倒するなど......皆の意思から程遠い」
「仇討ちなど出来ない......今の私の願いはただ一つだ、アンキャナー......」
(ほう......何かね? )
「消え去る前に天国を見てみたい」
シラの言葉は真剣だ、霊体だからこそ解る決意の固さ、そして彼は「冥土の土産」を求めている。
(......)
(......なるほど)
(なら二つの選択を与えよう)
「 ? 」
シラの願いはアンキャナーからの提案で返された、ここで何かを選ばせると言う。
「二つ? 一体それはどういう意味なんだアンキャナー......」
(先程も言ったように、この世界は霊力世界で補われている)
(君達が言う天国が、君達"霊体の帰る場所"と言う意味での天国か)
(我々が目指す"世界の覚醒"と言う天国......「高次元世界」か)
(どちらか選ぶと良い)
「...... ! 」
シラは困惑した、アンキャナーは目的を明確に現せる。
後者の選択は興味があったが......
危険な匂いを感じさせたのである。
それには理由がある、何故ならシラは、あの時......つまりアンテナがユナを挟んで、扉に触れたあの時に......
ユナの札から発せられた光を浴び、あの"崩壊した世界の未来"を見せられていたのである!
「アンキャナー、貴方はもしかしたら"未来"から来たのでは無いか? ......」
シラは選択に対し質問を投げ掛ける、確信に近付きたい様だが......
「その覚醒すると言う世界は、滅亡の可能性を意味するのではないか?」
(何故その様なことを? )
水面に石を投げると波紋が広がるが、結果何も変わらない。
だが、このシラの反論は大きな石を投げ、波紋所か大きな波を起こして水面を豹変させたかのように......
アンキャナーははっきりしなかった霊体の顔を浮かべて見せて、シラの言葉に反応する。
(覚醒社会と言うのは単純に......)
(人間に霊力の"使用権限"を戻そうとする試みだ、霊力により科学の分野や医療を始めとした技術の進歩が進み、結果として辿り着く不死解明により霊力世界は意味が無くなる! )
やや饒舌になったアンキャナーは、シラに強く主張する。
「霊力世界の崩壊が望みだったのでしたねアンキャナー、霊力世界が無くなると地上はどうなる? 」
(楽園になると言えば解りやすい、寿命も伸びるだろうし)
(仮に死しても霊体を抽出すれば済む事だ、別に身体を用意すればいい)
(道具が無くても火を起こせる様な人間が溢れているのだ、完全にエネルギー問題も解決する)
アンキャナーの演説めいた呟きは、ややオーバーに感じ取れるがシラには解らなくともない。
だが......シラは言う。
「一時的にはそうかも知れない......が」
ユナの札の光を浴びたシラは、あの崩壊世界の詳細に触れようとしていた。
「あの見せられた未来の記憶は、完全にその世界の楽園の末路でしかない......」
アンキャナーは首をかしげて、シラに問う。
(何故この様なことを言い出すのか?)
(君は何の情報を得たのかね? )
シラの様子を不思議に思うアンキャナーだったが......
彼の霊体に何か小さな「付着物」が有るのを確認する!
(なんだ......これは!! )
アンキャナーが取り乱す様に目を見開き、シラの霊体の付着物を凝視する。
(霊体に付着する霊糸クズ? ......いやこれは! )
シラも突然のアンキャナーの豹変に驚愕した。
シラも同様に付着物に気が付き、確認する。
「これが......! あのぬいぐるみの少女の、札の記憶を放った光の正体か!? 」
シラの霊体に付いた付着物、小さな霊糸の塊にも見える。
(これは驚いた......トンだメッセンジャーも居たものだ! )
(極小な霊糸の塊、だがこれは......霊糸回路だ! )
(いや......最早これは霊糸ナノマシンと言って良い位の異次元の産物......!)
(ふははははは! どこの誰だ! こんなふざけたモノをばら蒔くなんて......)
驚愕の顔が霊体から浮かび上がったアンキャナー、そして落ち着いた顔が見え不敵に笑う。
(駄目じゃないか......ネタバレから先に見ちゃあ......のんびりやってた計画が......なんて事をしてくれるんだ)
まるで急に「素」が出た様な言葉に、シラが睨む。
そして遂に思っていた事を言葉にする。
「アンキャナー......貴方は......」
「人類の」
「敵だ......!」
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