第116話「未来からの呼び声」


「見える......東京? いいえ、ソレだけじゃない、もっと沢山の都市の残骸が見える......」

 

 その記憶が見せる世界と主要都市と思われる光景、見慣れた建物は既に廃墟であり、果てしなく未来であろう......その風景。

 

「カレンダーが見える......2064年!? 」

 

 もしかすると......自分達の世界でも、すぐにこのような崩壊がやってくるのかも知れない様な......

 そんな恐怖がまず先に人間である二依子とユナに感じ取られた。

 

「酷い光景......あの"鍵"がそこまで強力ではなかったとしても、もっと沢山持ち寄ってしまったら......もしかするとこうなってしまうって事? 」

 

 二依子の声がザジのプラモデルボディから聞こえ、フォッカーはその問いかけに答える。

 

「黒騎士(ブラックナイト)衛星って言うけど、未確認な衛星ってな訳で中身なんて誰もわからんよな」

「天国だとか崇めたてられて、アイツ(教団亡霊)らに知恵をもたらした位の大黒幕だが......」

 

 フォッカーの答える言葉に、ザジも付け加えて語る。

 

 「今流れる記憶の様子だと、その衛星の侵入を許すと、とんでもなく世界的に不味い事になるんだろうな......」

 

 刷り込まれた記憶、ユナや二依子の様な憑依した人間なら夢現な情景にも感じ取れるが......

 ザジやフォッカー等、この場にいる亡霊達には強烈に、現実的に刷り込まれていく。

 

 亡霊は生前の記憶が薄れる傾向にあるが、新たな記憶が流入した場合は欠如すること無く記憶していくのである。

 

「あわわわわ......」

 

 一方、記憶の波動を放出している札に憑依しているユナは、かなり記憶の深い部分に触れている様子。

 

 荒野と亡霊の世界が何故そうなったのか、そして人間は何処に居るのかが鮮明に刷り込まれた。

 

「成層圏の崩壊!? 宇宙線の流入!? 国家単位で地下に移住?! ......おいおい滅亡まっしぐらじゃねえか!! 」

 

 困惑するフォッカーの声、そしてユナのヌイグルミから出る波動は更に勢いを増し。

 

 重要な「何か」伝えようとして光輝くその時......!

 

 強烈な光と衝撃が舟の霊体目掛けて、側面から撃ち込まれ!!

 

 舟の霊体が大きく崩壊したのである!!

 

「 !! 」

 

 衝撃で甲板が盛り上がる!

 波のように崩壊していく!

 床だったモノが急激に、宙に浮いた破片に変わる!

 

「うわあああ!! 」

 

 驚愕する一同、捕まっている甲板部分が周囲が急激に崩れる!

 

「なんだ! 何事だ! 舟の霊体が自爆でもしたのか! 」

 

 フォッカーの驚愕の声の後、バラバラと船体を構成していた木材やプラスチックの部品等が......

 激しく拡散し成層圏の弱い重力で飛び散った!

 

 「うおおおおお! 」

 

 こうして舟の霊体は完全に破壊された!

 最早舟の原型は無く、中から鳥の霊体らしきものが顔を出す。

 

「離れるなよ! 一同離れたら即、散り散りになるからな! 」

 

 声と共に、崩壊していく舟の霊体の破片に突っ込んで来る影がある。

 周辺で控えていたパルドの飛行船ドローンである。

 ユナの射出の後、ずっとザジ達の周囲にまで距離を積めていた。

 

「ザジ! フォッカー! 二依子ちゃん! 捕まれ! 」

 

 飛行船ドローンの収納ハッチが大きく開くと、霊糸で繋いだハープーンガンが発射され。

 ザジのプラモデルボディとドッキングしているフォッカーのドローンに貼り付いた!

 

「ユナちゃん! ユナちゃんは! 」

 

 二依子がユナを探す!

 パルドが飛行船ドローンの操舵室で、ウインチを操作して言う。

 

「それなら問題ない! 彼女のクマには俺の霊糸で既に出撃時に接続している! 引き寄せれば問題ない! 」

 

 グッと霊糸が引き寄せられる!

 ザジ達は格納スペースに引き寄せられる、ザジの霊力の回復と、霊体の修繕の為だ。

 

「ひょおおおおおおおおお! ......ブヘッ」

 

 遠くから引き寄せられて来た、変な声。

 ユナのヌイグルミのクマボディがパルドの霊糸ウインチで引っ張られて凱旋。

 勢い余って操舵席の透明なコックピットカバーに、潰れたカエルみたいになって貼り付いた。

 

「宇宙に放り出されるかと思った......」

 

 ユナはズルズルと壁伝いに移動、飛行船ドローン下部のレストルームコアにたどり着くと、出撃ハッチが開く。

 

「ユナちゃん大丈夫か! 内部に入ってくれ、みんな回収出来てるぞ! 」

 

「みんな無事なの! よかった! 」

 

 パルドの安否報告に喜ぶユナ、ハッチを潜ってレストルームに侵入する。

 

「ユナちゃん! 」

 

 二依子がレストルームの内部で霊体のまま出迎える、ザジのプラモデルボディに入った彦名札に定着している為、余り動けない様だが......

 

「大丈夫、私は上手く札が機能している、ユナちゃん......そのお腹のダメージは大丈夫なの!? 」

 

 二依子はプラモデルボディの背中から霊体を引き出して言う、そして何やらユナの腹部に指さしで言う。

 

「へっ? お腹? 」

 

 ユナはレストルームで同じようにクマのヌイグルミから抜け出て言うが、唐突な二依子にダメージを指摘されたので腹部を確認した。

 

 ......すると、ユナの霊体の腹部に定着していたユナの札が、光りを放ち一部が欠けているのが解る。

 

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