第115話「上昇次元世界から」


 二依子の霊力の残り香が鍵(アンテナ)を輝かせる。

 

「僅かな霊力しかないが! 扉が反応しているぞ! 」

 

 舟の霊体内の教団亡霊の声が、希望を諦めていない様子を物語る。

 そして、扉との接触がすぐそこまで迫って来る。

 

 (その霊力で、扉が開くのか? )

 

 二依子をプラモデルボディに乗せたザジが思う。

 

 二依子の救出に成功したザジ達は、上空の様子に警戒しながらその様子を見ていた。

 

 (いや......無茶だ)

 

 ザジが感じ取った上空のバリアの厚みはとんでもなく果てしない。

 そもそもこのバリアは何に対するバリアなのか......

 疑問に思うザジが考えている内に......

 

 鍵(アンテナ)の先端は、扉に触れた!

 

 "共振"とも呼べる霊力の波動が響き渡る!


「 うわっ! 」

 

 扉の赤い光が消えて鍵(アンテナ)に収束される、すると大きく増幅されたのか鍵(アンテナ)は膨大な霊力を放ち始めた!

 

「大変! 何か鍵が起動してる! ヤバいんじゃないの! 今コレが開いたら......」

 

 ユナが焦る、フォッカーがその焦りに合いの手を入れる。

 

「バリアが開くからな、多分、太陽の熱とか紫外線とか宇宙線がモロで飛んでくるな......」

 

 その場の全員がハッと気付く。

 

「 私達、黒焦げじゃないの!! ヤベエよどうするのよ! 」

 

 ユナが頭を抱えて叫ぶ。

 さっきまでヒーローの様だったのに、瞬く間に三下モブの様な台詞が飛び出した。

 

「くそ、俺が動ければ......仕方ない、ユナ! 頼む! 」

 

 何とかしてアンテナを止めたいザジだが、この場でアンテナをどうにか出来る存在は......

 たった一匹のクマしかいなかったのだ!

 

「ぬおおおおお! させるかこの野郎! ブッ飛ばしてやる!? 」

 

 完全に自身がヒロインであることを忘れたユナが、再びアンテナに攻撃を慣行する。

 

「おりゃああああ! こうなったら! ヤ ケ ク ソ だああああ! 」

 

 飛び上がるヌイグルミボディのユナは霊力を全開!

 クマなのに鳥のようなオーラを形成しながら、アンテナに突っ込んだ!

 

「クマあああ! バードおおおお! アタあああああック! 」

 

 謎の体当たりは以外にも強力で、霊力の残り香が光るアンテナの真空管の先端を......

 

 一気に打ち砕いた!

 

「......よっしゃ! アンテナ霊力源、完・全・破・壊!! 」

 

 ユナは機能が停止し始めたアンテナの上でドヤ顔でポーズを決める!

 勝ち誇るクマのヌイグルミが、勇ましく腕組みをして輝いていた。

 

「見ていた? 二依子ちゃん! 私やったよ! みんなを救ったよ! ......ウヘヘヘヘ」

 

 やや狂喜にも取れるニヤリ顔のユナ、何というか殴りたくなるような笑顔である。

 

 ザジ達を見下ろすユナ、プラモデルボディに何とか定着している二依子が何かを伝えようと、ユナに叫んでいた。

 

「やだなあ、二依子ちゃん、そんな驚いた顔しないでよおおお! ......え! 何? 」

 

「上が何だって?」

 

 コントで言う「後ろ後ろ! 」みたいな惚けっぷりの台詞、ここでユナは上を見上げる。

 ......そこには"扉"が眼前に写ったのだ!

 

 

「「ほげえええええええええ! 」」

 

 

 物凄い霊体の声と共にユナは......

 

 扉と停止したアンテナと、サンドイッチ状態になったのである!

 

 そこで起こる突然の現象。

 風避けの無い極寒の舟の霊体の上で、奇妙な事態が発生する。

 ユナの札が"扉"に反応したのだ!

 

 

「 !? 」

 

 ユナが"扉"と呼ばれた成層圏のバリアに触れた瞬間、謎の"霊力の波動"が発生、不可思議な「何か」が波の様に広がりザジ達を包み込む。

 

「何だ! これ! 物理的な作用の霊波じゃない! 」

 

 霊体のまま頭を抱えて困惑するザジ、二依子もフォッカーも飛行船ドローンのパルドまでもが困惑している。

 

「これは何だ! 何かが見える、感じ取れる! 情報なのか? これ......」

 

 ザジ達の霊体に刻まれる情報、それは、扉の向こう側......

 

 つまり黒騎士(ブラックナイト)衛星(サテライト)の存在の"意味"を知らせる警告。

 

 別の次元の記憶が......

 その場にいるザジ達に流れ込んだのだ!。

 

 その現象はこう呼ばれる。

 

 多世界(マンデラ)記憶流入(エフェクト)である!

 

 この現象は天寿を全うしたある国の革命家が、何故か獄中で死亡したという......

 謝った認識がその国で広まっていた事が起こりで、別の世界の記憶が人々に流れ込んでいたのではないかという都市伝説である。

 

「何の記憶? これ! 地球上の風景なのに......」

 

 ザジ達に困惑が走る!

 

 その光景は地球上なのに人の気配が全く無く、亡霊の気配が蔓延り、他は何も無い。

 火星や月のような風景に、地球上であるという都市の残骸が残る。

 何も必要じゃなくなった、霊力だけの理想的な霊力都市。

 

 

 次元上昇(アセンション)世界(ワールド)......

 

 

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