第117話「天(会合)と地(脱出)と......」


「ぎょえうぇえええ!! 札が欠けてる! 私! 大丈夫? 透けてない? 」

 

 大慌てのユナが叫ぶ、だが札の一部が欠けた状態でも霊体に影響が無いのか、ユナの霊体は落ち着いている。

 

「大丈夫だと思う、ってか霊体は常に透けてるんだけど! 」

 

 二依子のツッコミが入る、よもや自分が突っ込まれるとは思いもよらず、ただ状況に慌てふためいていたユナだが......

 

 そのユナの動揺を書き消す様に、周囲の様子が変わっていた。

 

「 !! 」

 

「おい......もしかして、舟の霊体はアレに攻撃されたんじゃないのか!! 」

 

 ザジとフォッカーが緊迫する。

 動揺に飛行船ドローンを操舵しているパルドも、緊張していた。

 

「下を見ろ......ユナ、二依子......」

 

 ザジが指差すその下、雲海が見下ろせる高高度の景色。

 その光景に何か大きな長い姿が見える。

 その長い姿は伝説上の生物そのもの......ザジが驚愕して語る。

 

 

「......"龍"の巨大霊体......!! 」

 

 

 初めて見るその龍の巨大霊体は、咆哮と共に口から強大なエネルギーの奔流を解き放つ!

 迸る電撃が真空放電現象の様に、真っ直ぐになって再びザジ達に襲い掛かる!

 

「パルド! 回避だ! 」

 

 ザジが叫ぶ!

 

「やってるよ! こればっかりは期待するなよ! 」

 

 繰り出される龍の巨大霊体の電撃放射攻撃!

 

「うわあああ!! 」

 

 飛行船内部はユナや二依子の悲鳴が響く。

 その電撃の標的は、主に舟の霊体に向けて放たれおり、周囲に居るザジ達の飛行船ドローンは、とばっちりを受けて大きな被害を受ける!

 

「不味いぞ! 飛行船部分が大きな的になって回避が難しい! バルーン部分が破れそうだ! 」

 

 ここまで無傷で来ていたが、もはや飛行船ドローンも限界が近い。

 パルドの霊力による防御も耐えきれず飛行船の尾翼やローターが吹き飛ぶ、いつ飛行船ごと大破してもおかしくない。

 

「駄目だ! 次の攻撃は耐えられない! 」

 「次が来たら下部の操舵席とレストルームコアを切り離す! 」

 

 そう言うとパルドは、飛行船ドローンの下部のザジ達が居る居住区のパージを行うという準備に入る。

 

  「「 合図するから、みんな何処かに捕まれ! 」」

 

 慌ててザジが周囲の壁に二依子も入るプラモデルボディを固定する、フォッカーはレストルームの霊力残量を感じ取り。

 

「レストルームの霊力残量はまだ余裕がある、俺が霊体だけになっても、ここから出なきゃ俺が消える事はないな......」

 

 そう言うと、自身が取り憑いていたドローンのボディを確認する。

 

「駄目だ、俺のドローンボディがこの中(レストルーム)に入るには大きすぎる......」

 

 飛行船内部の格納スペースに、ザジのプラモデルボディから切り離して格納していたのだが......

 フォッカーのドローンのボディは電力による稼働限界もあり、更にレストルームには大きすぎる為、捨て行く事になった。

 

「本来は十分程度しか飛べないのに、霊力でここまで稼働時間を延長して来たんだ、本当によくやったよ......あばよ」

 

 フォッカーはドローンを囮に使うのか、霊力を僅かに封入しレストルームに入ると、準備が出来たのかレストルームの壁にしがみついた。

 

「来るぞ!! 」

 

 再び龍の巨大霊体が放電による攻撃を解き放ったその時......

 

 「 今だ!! 脱出するぞ!! 」

 

 ザジとフォッカーが叫ぶ!

 

 合図と共に四角い机の引き出しの様な、"レストルームコア"が飛行船ドローンの下部から、スライドするように抜け落ち。

 

 地表目掛けて......

 

 真っ逆さまに落下していった!!

 

 落下するレストルームコア、上空の飛行船ドローンは龍の巨大霊体の攻撃により......

 

 爆散している様子が確認された。

 

「飛行船が......! 」

 

 ユナが上空の様子に青ざめる、あれだけ耐えていたのに呆気なく吹き飛ぶ飛行船の様子に恐怖を感じた。

 

 そして吹き飛ぶ飛行船ドローンを尻目に、龍の巨大霊体は舟の霊体の「外装」を攻撃して完全に破壊する......

 

 舟の霊体は完全にその形を失い、醜い「鳥」の姿を見せ始めた。

 

 そう......

 これは"舟"と思われていた、巨大霊体の本来の"鳥"の霊体としての姿である。

 

 ......そして。

 そのくちばしには、内部で装置を使って制御を試みていた教団亡霊三人(キョウシロウ、ベーコン、イーブン)の物言わぬ食われた姿があった。

 

「ギョエエエエエエ!! 」

 

 鳥に戻った巨大霊体は......

 

 「食い足りない! 」と言わんばかりに鳴き声をあげて。

 

 地上を目指して降りていく。

 

 龍の巨大霊体もそれを確認すると、再び雲海の中に飛び去り消えていった。

 

 ******

 

 

 (......ラ)

 

 

 (......シラ)

 

 (......えているか、シラ)

 

 (聞こえているか、久遠坂シラ)

 

「......」

 

 何も見えない真っ暗な空間。

 

 ここに、何故かザジに敗北し、壊れたボディの中で活動を停止状態になっていたシラの霊体が存在していた。

 

「ここは? ......何処だ? 」

 

 シラの霊体は試験管の様な装置に入っていた。

 そして目の前に居る、謎の声の相手を見る。

 

「君は誰だい? 僕をどうやってここに連れてきたのか? 」

 

 声の主である男が霊体で姿を見せる、その姿は所謂のっぺらぼうの様で顔が薄く。

 "特徴という概念"が感じ取れない、不可思議な霊体の持ち主だった。

 

 (霊体送信システムが正常に稼働したようだな、アンテナのポイントから君達を強制送信させたのだ)

 

「僕のあのボディをハックしたのか、あの僅かな時間で......凄いな」

 

 シラの返答に対して、そののっぺらぼうな不可思議な霊体は言う。

 

 (ようこそ、シラ)

 

 (ここは君達が目指した天国だ!! )

 

 不可思議な霊体は、大きく腕を広げ歓迎の会釈をした。

 

「まさか、黒騎士(ブラックナイト)衛星(サテライト)の中なのか! 」

 

 シラが驚愕する、遂にたどり着いたのである。

 シラの歓喜の言葉に不可思議な霊体は語る。

 

 (そう......その名で呼ばれるのは仕方ない、この衛星はそれを"模して認識される"ように配置した)

 

 (本当に"ブラックナイト"が存在するかは......定かではない)

 

 (複数ある"その候補"に紛れ込んだだけに過ぎない......)

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る