第110話「高度三万メートルの戦い」


 ここでザジは疑問をぶっちゃけた。

 

「何故そんなに行き急いでいるんだ! 初めから消耗を考慮すれば逃げ勝てる! 」

「意地になって戦っている場合じゃないだろう! 」

 

 ぶっちゃけたザジの問いにシラはゆっくりと答える、その表情は微笑みを浮かべていた。

 

「そうだね、本来なら地道に霊力を貯めて天国に行くための算段を付けるね」

「君達と戦うなんてこと事態が......もっての他だ」

 

 シラの左腕がグラリとしなだれるが、霊糸で補強したのか再び振り上げる様に動かして、健在をアピールする。

 

「だけどね、僕達は天国への執着だけでは亡霊を維持できないんだよ、君達ならわかるよね......」

 

「パープルを見ての通り、成仏から逃れられないんだ、君達の様に生前からの未練の染み付いたボディがあっても......」

 「 死後の亡霊になってからの未練が"無(な)い"んだからね! 」

 

 ここでシラ達の行動の動機に、亡霊としての寿命が迫っている事が後押しになった事がハッキリした。

 

「サテライトからの通信が無ければ計画丸ごと頓挫していたよ......」

 「人間を供物にするという"扉(とびら)"の解除や、イベントを強襲する霊力の回収はサテライトからの交信者からバックアップ有ってだからね」

 

 シラの言葉にザジは驚きの表情を見せる、サテライトは想像していたよりも強く深くシラ達のバックアップをしていたのである。

 驚愕のザジにシラは不敵に笑い語り掛ける。

 

「そんなにおしゃべりしていていいのかい? 風避(かぜよ)けが復活してしまうよザジ君」

 

 シラの言葉通り、このままだとレーザーがプラズマを乗せて攻撃してくる。

 ザジが的になるのは明白だ......が。

 

「いいや、風避けが復旧してもプラズマは再度加熱にしてレーザー乗せる訳だから、それを操作するお前の手が一時的に止まるはずだ......」

「補助していた舟の中の教団達は、今は制御と交信で手一杯なんだろう?」

 

 この問いにはザジの一か八かのハッタリが含まれていた。

 お互いに「すぐに相手のボディを破壊出来る方法」を突きつけている筈だが、シラの焦りはザジの推理の鼻を匂わせる。

 

「その一瞬の隙で十分だ! 発射に使う強い霊力の流れはすぐに察知出来るからな! 」

 

 ここで重ねる様に言い放たれたザジの攻撃宣言が、激しくシラに突き刺さる!

 かなり図星のようでグラリと体を傾けて額に手を乗せて笑う。

 

「いやあ本当にブラフやハッタリが効かないな、懐に入られてる時点で僕はスッゴい不利なんだよ」

「でも君も余裕がないんじゃないか? さっきの大技での消費は、君の霊力状況を著しく傾けているね」

 

 シラの指摘の通り、ザジもオリジナルボディから溢れていた霊力が、消耗により見る影を失っていた。

 そう......シラもまたザジの霊力消耗を察知している、これからの行動の結論が自ずと出てくるのだ。

 

「お互い、次が最期の一撃か......」

 

 真剣な面持ちのシラの声が届くと、ザジも呼応するかのようにプラモデルボディが剣に霊力を収束させる。

 

「シラ......俺は二依子を助ける、恨みっこ無しだ、ケリを付けよう......」

 

「そうだねザジ君、僕は君達を退けて天国を目指すよ、みんなで決めた約束なんだ」

 

 シラが右手から過剰な刃を発生させると、甲板のプラズマ発生機から出るプラズマを、刃に纏(まと)わせる。

 加熱プラズマが纏う過剰な刃は、黄金色に燃え上がり激しく光る!

 

「自分の周囲なら風避けが効いてる、今すぐに収束できるプラズマで出来る僕の精一杯だ......」

 「そしてこれは切り札でもある、僕達教団亡霊の最期の希望"黄金の剣(テュルフィング)"だ! 」

  「......さあ準備オッケーさ、決着を付けるよ! ザジ君! 」

 

 周囲は青い空も無くなり、漆黒の空が姿を表す。

 高度は三万メートル、地平線は青と黒、そして上には燦々(さんざん)と輝く太陽の光が、強いスポットライトの如く強烈に照らし出している。

 

 舟の霊体はその広い虚空の中、ポツンと浮かぶ大海の小舟の様な、小さき存在を現していた。

 その舟の上で太陽の光に焼かれながら、ザジとシラのボディが剣を構えて相対していた。

 

 一瞬の間が時間を止めた様な錯覚を産むと、周囲の観戦者達が一斉に息を飲む。

 シラを見る教団亡霊ポリマーも、ザジを送り込んだフォッカーも。

 飛行船ドローンからフォッカーの中継を見ているユナとパルドも、この一瞬に緊張を覚えた。

 そして......

 

「でやあああああ! 」

 

「はああああああ! 」

 

 ......遂にその緊張が弾けた!

 

 相対するザジとシラが、一気に間合いを詰める!

 

 先手を取ったのはザジだ!

 シールドを使った打撃を慣行、シールドバッシュである。

 

 だが......

 

 「 !! 」

 

 突きだしたシールドは、紙切れの如く切り払われる!

 

 プラズマが乗った黄金の剣(テュルフィング)は、シールドの内側のアルミ板などもろともせず、プラモデルのパーツの盾は役にも立てずに袈裟斬りにされた!

 

「霊力持続シールドも時間切れかい?! 」

 

 不敵に笑うシラに、ザジが反撃を開始する。

 

「くそっ! オーヴァード・エッジ!! 」

 

 再びオーヴァードエッジが省エネ状態から解放されると、シールドを破壊したシラに向けて「突き」を放つ!

 

 だが......「受け」により反撃は潰された!

 

「左の剣を忘れて貰っては困るよ! 」

 

 しかし補強した左腕から伸びた霊力の刃では、オーヴァードエッジの突きを払いきれない!

 

 結果......左腕の肘から先はオーヴァードエッジに切り落とされたが。

 シラのボディはダメージフィードバックが薄い様に工面されており、あっさり左腕を犠牲にして次の一撃に賭ける事が出来た!

 

「黄金の剣(テュルフィング)よ!舞い上がれ! 」

 

 シラのプラズマが乗った刃は盾を打ち破った後に返し刃を振るう!

 プラズマが派手に輝き、渦を巻くように剣に纏いつくと......

 下から振り上げる様に斬り上がる!

 

「切り裂け! 黄金の剣よ! 」

 

 飛び上がるアッパーカット、シラは空中を優雅に舞った。

 

 その一撃は......

 

 ザジの無防備な胴を確実に捕らえた!

 

「ぐあああああああああ! ......ああ......あ......」

 

 ザジの霊体がフィードバックを受けて大きく叫ぶ、胸部に大きな斬撃を受けて霊体が裂ける!

 そして血飛沫が舞うように霊体から霊力が吹き出す!

 

「ザジイイイイイイ!! 」

 

「ザジ君!! 」

 

 フォッカーが悲鳴の様な叫び、ゆっくり倒れていくザジの姿が、中継を見ているユナやパルドにも悲壮感を漂わせる......

 

 しかしザジのプラモデルのボディは、崩れ落ちる膝を立て直し......

 飛び上がったシラを迎撃せんと仰ぎ見る!

 

「 ! ...... !? 何故だ! 何故ボディが破壊出来てない!! 」

 

 落下しながら、黄金の剣(テュルフィング)で切り上げたザジのプラモデルの胴を見るシラ......

 僅かに光が見える。

 

「ハイ......ファントム......クリスタル・アーマー......だ......」

 

 そう......盾に張り付けたクリスタルシールドの防御持続を、胴体に移動、収束させて防御したのである。

 胴体の装甲は大きく切り裂けたが、盾を切り裂いた分切れ味が落ちて、黄金の刃が装甲ギリギリで止まり内部のフレームパーツの破損が免れた。

 

「ファントム......ニードル! 」

 

 ザジのプラモデルボディの内蔵火器(ミサイル)パーツから、ニードルが放たれる!

 

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