第109話「高度二万八千メートルの戦い」


 (今しかない......、風避けが復活したら再びプラズマレーザーが俺を襲うだろう。)

 

 斬り結ぶ二人の周囲に、ザジを攻撃しようとするレーザーポインターが自動標準を合わせてくる。

 

 (今の俺はオーヴァードエッジで霊力を剣に収束させている、プラズマが乗ったレーザーを弾く術が今はない......)

 (今をこの攻撃の機会を逃したら蜂の巣だ! )

 

 斬り結んだ状態で、ザジはシラを鍔(つば)競り合いで圧し始める。

 

 (そうなる前に決着を付けないといけない、二依子を助けるんだ! )

 

「チィ......! 」

 

 ここで競り合うのを嫌がったシラの前蹴り、これにより僅かに距離が離される、ザジに押し倒されると悟ったからこその行動である。

 

「でやああ! 」

 

 逃げるシラを、ザジのプラモデルボディから繰り出される横凪ぎ一閃が襲う。

 シラはそれを、上体を反らす様にして器用に回避。

 

「この人体模型のボディを舐めて貰っては困る、プラモデルと違って可動が生み出す運動性は半端じゃないぞ! 」

 

 回避からの反撃、シラは手刀から伸びる霊力の過剰な刃(パラダイスオブセイバー)を突き立てる様に打ち込んでくる!

 

「 ! 」

 

 だがその刃が通る事はない。

 盾が障害となって防ぎ切る。

 

 何故ならザジも無策ではなく、ハイ・ファントム・クリスタルシールドをあらかじめ発動させており。

 

 盾に持続した霊力結晶が、ただのプラモデルのパーツであるはずの盾を、霊力攻撃で突破出来ない強度に引き上げている。

 

「運動性は知ってる、以前の戦いでも似たようなボディだったじゃないか......」

 

 二人は過去に対峙しており、以前の戦いではザジが勝利していた。

 

「二年前とは違うよ、以前のボディは可動も微妙に少なかったし、今みたいな緊急回避行動も出来なかった」

「でも今回は伝達も早い、霊力の巡りも極力抑えて、ダメージフィードバックも減らしつつ、小出しで出す強い霊力を維持して戦える! 」

 

「究極のボディだよ! 」

 

 (やはり長期戦狙いだ......)

 

 ザジの見解が当たっていた様だ、シラはいくらでも逃げ回り、霊力消費でパワーダウンしたザジを討ち取る算段でいるのである。

 

「ファントム・リ・エッジ!」

 

 霊力スキルと共にザジの攻撃が再開される、オーヴァードエッジの霊力を無駄にせず、振るうべき刃以外での無駄な収束を抑えて、斬撃を繰り出す。

 

 当然シラは受け流しつつも反撃に出る、だがそれは盾に遮られるが......

 

「その盾は何時までガード出来るかな? 」

 

 シラの反撃で、プラモデルの盾に張られた霊力結晶の持続力が削られる。

 

「そおれ! これはどうだい!? 」

 

 シラは更に追撃、その体制は明らかに低い。

 

 (下段攻撃! )

 

 ザジの盾は膝位まではカバー出来るが、完全な足を狙う攻撃は対応仕切れない。

 手で盾を抑えて、シラは寝そべって這うように足首を狙う!

 

「 ! 」

 

 しかしザジのプラモデルボディの足は、盾を掻い潜った先にはなかった!

 

 ザジのプラモデルボディも、以外に細身な見掛けをしている為に可動と運動性が良く、咄嗟の回避も柔軟に行える様だ。

 

「ここだ! 発射! 」

 

 プラモデル特有の腕にマウントされた盾、その軸受けから側転するかのように飛び回って回避するザジ。

 

 回避したザジのプラモデルボディ、その肩に付いたミサイル武装パーツから、射撃攻撃用のニードルが発射される!

 

「ひょおおおお! 」

 

 すっとんきょうな声を出したシラ、バリア防御が間に合わずボディにニードルが突き刺さった!

 

「......浅い! 畜生! 」

 

 ザジの嘆きが漏れる、オーヴァードエッジの収束により霊力集中が間に合わず、ファントムニードルの威力も微妙な結果になってしまったのである。

 

「酷い針治療だ、そう言えば前回の対決も、そのボディの以外と動ける可動範囲を甘く見て、バッサリやられたんだったね」

「同じ理由で負ける所だったよ、危ない危ない......」

 

 間抜けな発言でごまかしているが、シラの内心は危機感で一杯である。

 

「突っ込んだらが負けなんだろうけど、僕も負けず嫌いでね! 全力で戦ってこそ華! 」

「逃げる時はヤバくなってからと決めてるんだ! 」

 

 (コイツ絶対懲りてねえ、付き合うのしんどくなってきた......)

 

 ちょっとザジも内心呆れている。

 

「派手に行くよ! 」

 

 そう言うとシラは両腕の手刀から過剰な霊力の刃を展開、再びいつぞやの様に無双ゲームの様な派手な技を繰り出さんと構える。

 

「光刃天輪(こうじんてんりん)! 」

 

 ボディを激しく回転させて霊力の刃を振り回す、光り輝くパラダイスオブセイバーが、回転で輪のようにまとまって見える!

 

「斬撃回天!」

 

 ザジはその回転を見るや否、ファントムブースターで加速しつつ盾裏のギミックであるパイルバンカーを地面である甲板に突き立て、弧を描く様にボディをスライドさせて滑る。

 その勢いのまま、オーヴァードエッジを再び集中させて振り回す。

 

「オーヴァード・エッジ! ツヴァイ・ヘンダー! 」

 

 収束したオーヴァードエッジが大剣(ツヴァイヘンダー)を思わせる形状を見せて、シラの回転技とぶつかった!

 

「うおおおお! 」

 

 シラがザジの技の勢いではね飛ばされる!

 同様にザジもシラの技で激しい反動を受け、パイルバンカーが刺さった盾にしがみついた。

 

「簡単に返されるなんて、流石としか言えないよザジ君! 」

「面白いね、戦いが面白過ぎて僕まで成仏しそうだ! 」

 

 吹き飛んだ先で変な方向に曲がった左腕をぶら下げて、シラは喜びの声をあげていた。

 

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