第108話「高度二万五千メートルの戦い」
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成層圏の上、衛星軌道上。
そこにはおおよそ百分で地球を周回する衛星、ブラックナイトサテライト≪黒騎士衛星≫が......
まるで何かを待つように周回を止め、軌道を変えて停滞軌道を行っていた。
この衛星は一説によれば地球の自転に逆らって周回していると言われ、飛行物体ではないかと囁かれている。
(この小説ではそう言う物体と言うことで表現させて頂きたい)
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「シラ! サテライトからの電波を受信、もうすぐ扉が降りる! 」
舟の霊体の中で、教団亡霊のイーブンとベーコンによる霊声が聞こえてくる。
「二人共、舟の霊体の様子に注意して......サテライトが近いとどんな行動に出るかわからないからね」
内部でサテライトとの交信を管理している二人だが、同時に舟の霊体の制御も担当している様だ。
「大丈夫......今のところ制御装置は安定している」
彼らが使役している舟の霊体は、基本的に人の霊には従う要素の無い融合霊のようなもの、意識は常に人知を超えており、制御無しではどの様に動くか理解不能。
サテライトが近い今、二人には余談もままならない。
「畜生! パープルさん......糞っ! 亡霊どもめ! 」
同じく教団亡霊ポリマーが、ボロボロのプラモデルのボディを引き摺ってパープルの最期の余韻に暮れていた。
「おい! 扉が"降りる"ってなんだよ! この舟の霊体がサテライトまでの直行便じゃないのかよ! 」
ザジ達の陣営ではフォッカーが聞き取った霊声で反応した。
てっきり上空まで上がってから開くものだと思われていた扉、そして鍵として使われる二依子の霊体が想定よりも早く使用されるのである。
(なんで俺達が舟の上で交戦しているのがわかっているかのように、扉を落とすんだ? )
(中の教団員が通信で状況を伝えているのか? )
ザジ達の困惑が進む、サテライトに明確な意思を感じ取らざる終えない。
只でさえアウェーな状況であるにも関わらず、更なる追い討ちがやって来ているのである。
「 ! 」
ここで状況を一変する出来事が起こる!
「なんだよ......アレ」
最早空が青さも無くなっていく高度に差し掛かろうとしている時に、更なる上空から光の柱が降りてきているのである!
「扉だ! アレ目指せ! 」
シラの霊声が全体に木霊する!
光の柱は所謂レーザーのように照射されるモノで、扉と言うには別物にも見て取れる。
つまりキーを認証するには別に扉の前まで赴く必要は無く、赤外線通信のようにサーバーが光の柱を通してデータ送信すれば解除が完了するようである。
「フォッカー! シラの懐に飛び込ませてくれ! 」
「わかった! 気を付けろよ! 」
もう猶予が無いと悟ったザジが、決死の攻撃作戦を敢行する。
フォッカーのドローンボディには、ザジのプラモデルボディが乗り。
一気に間合いを詰める為に全力移動を開始する。
迎え撃つはシラ一人、彼は扉をゆっくり見据えた後に、向かってくるザジ達に言い放つ。
「まるでメギドの火を表す光の柱だ、"天国"の迎えが来ているとか、俄然やる気が出てくるね! 」
そう言うとシラの周囲にプラズマレーザーの弾幕が展開される、可能な限りの霊力操作で網の目のように照射された。
「どうするんだザジ! レーザーの防御で手一杯だぞ! 」
レーザーはシラの周囲のプラズマを誘導し、強力な熱量としてザジ達のバリアを削り始める。
そして......
「くああああ! 」
耐え続けるザジとフォッカーの声は、バリアと共に大きく持ち上げられる様な形になり......
激しく上空へ打ち上げられる。
「ザジ! このままだと近づけない! 何か策はあるのか! 」
プラズマレーザーの弾幕に弾かれる二人。
上を見上げれば、青い空に眩しい位の太陽の光が二人の影を作る。
「目眩ましのつもりかい? 残念だけど、霊体相手には無意味だよ」
シラがそう言うと、上空に打ち上がるザジ達に向けて手を掲げる。
「主砲......発射! 」
舟の霊体の船首が割れ、本来の巨大霊体である鳥の霊体の顔が現れると......
口を開けてザジ達を撃ち落とそうと、喉一杯にガラスの砂塵の溜まりを送り込み。
強力な熱量と共に撃ち出す準備を始める......その瞬間!
「ここだ! 」
ザジが上を見上げる様に剣を翳すと、霊力を目一杯剣に収束し......
過剰な刃が形成される!
「ハイ・ファントム! オーヴァード・エッジ! 」
大きく上に突き立てる様にオーヴァードエッジを振るうザジ。
彼が振るうその刃が、空中にある「何か」に引っ掛かる!
......パン! っと弾ける音が一面に広がる、それはまるで"風船"が割れる様にも聞こえる音だ!
「 ! ......まさか! 」
ザジが斬り付けた空中に在るもの......
それはこの舟の霊体が空気抵抗を遮断するために張っている結界......
つまりザジ達の言うところの「風避け」である!
「 ! 」
シラが立つ舟の甲板に雪崩れ込む強い風!
高度は二万を超えている、氷点下の突風が吹き荒れる!
「ギョエエエ! 」
ここで突風に煽られ、首を引っ込める鳥の霊体。
この鳥の頭が、ボディの一部である証拠であり、実体を庇う素振りを見せたのだ。
「副砲対空砲火! レーザー発射! 」
シラが即座副砲であるレーザーを照射する。
だが......
「まさか! 」
シラがレーザーに乗せるプラズマを収束させようとするが......
プラズマが上手く収束しないのだ。
氷点下の大気に含む水蒸気によって、プラズマが拡散し熱量を帯びない。
それに加え周囲が冷却されて凍り始める。
「くそ! 仕方ない! 」
シラはボディと甲板の凍結による接着を免れる為に"風避け"を貼る。
だがその隙を見逃さずに間合いを詰める影があった。
「行け! ザジ! 」
フォッカーから飛び降り、オーヴァードエッジを構えてザジが飛び込む。
「おおおおお!」
激しく吹き荒れる風を切って、ザジはシラの前に降り立つ!
「パラダイス・オブ・セイバー! 」
シラは同様に過剰な刃を形成し受け流すと......
両者は激しく斬り結んだ!
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