第107話「高度二万メートルの戦いとファン1号」


 その青白い光はザジ達には見覚えがあった。

 

「まさか......」

 

 そして間一髪でパープルを救った筈のシラも、その様子に表情を豹変していく。

 

「パープル......早く舟の中に......!」

 

 ゆっくりと驚いた顔をするシラ、それもその筈、その光は彼ら「天国」を目指す者達にはあってはならない現実だ。

 

「ワリい、シラ......ここまでだわ」

 

 パープルの表情は諦めきってる顔である。

 亡霊なら必ず起こる現象で、教団亡霊であっても変わらない現実。

 

 ......成仏だ。

 

「パープルさん! 待ってくれ! 」

 

 ボロボロのプラモデルボディのポリマーが、這いずりながら手を差し伸べる。

 

「みんな一緒に行こうって言ってたじゃないか! 何で......」

 

 パープルはポリマーに笑みを浮かべて語り返した。

 

「本当はもっと前から予感はしてたんだよ、俺は病気で舞台に上がれなくなって、お前達とツルんでたけどな......」

「天国うんぬんよりも、俺はまた舞台に上がりたかったんだ......今の演目で"未練"を取り戻しちまった......」

 

 ねぱたはパープルの輝く姿を見て言う。

 

「思い出した"未練"をここで燃やし尽くしたんやな......」

 

 パープルがねぱたの言葉に対して、空を見上げて答えた。

 

「ああ......不覚にもやっちまった、ずっと仕舞い混んでたのに漏れ出ちまった......」

「だからここでオサラバだ、大根役者は静かに降りるぜ。」

 

 ここで舟の霊体が揺れる......何かに反応するように......

 

「時間だ......長居はできないしな」

 

 そう言うと、パープルの霊体はグラりと揺れる、そしてすり抜ける様に舟の霊体から落ちていく......

 

「あばよ、短い仲間ごっこでも楽しかったぜ......シラ」

 

 パープルの霊体から完全に霊核が抜け落ちて魂の形になると、ゆっくり地上に落ちていく。

 

 人の霊体もまた地上に在るべき存在であり......

 また地に帰る様に地球の引力に引かれているのだ。

 

 ねぱたはパープルの最期の姿を見て、一人で何かを決心した。

 

「ザジ、ウチももう戦えへんわ......飛行船のレストルームに戻ってウチが霊力バカ食いしたら勿体ないやろ」

 

「え......? 」

 

 ザジがねぱたの提案に困惑する、そして彼女がこれからどうするのかが解っていた。

 この舟の霊体からの離脱である。

 

「いや......でも......姉さんのボディが無事で済むかどうか......」

 

「オドオドせんと男ならシャキッとし! アンタが"これからやること"位解るわ」

 

 困惑するザジを一喝すると、ねぱたは下を向いて微笑む。

 ......それは先程成仏し始めた、パープルに向けての様だ。

 

「二依子ちゃんはアンタがしっかり助けてや! ウチはちょっとアイツ見取ってやるわ」

 

 そう言うとねぱたはフワリと倒れ込む様に、雲海の空へと落下していった。

 

「また下で会おうな! 先に下でキャンパーに拾って貰うわ......」

 

 ねぱたは落下しながらキャンパーの面子の顔を思い出す。

 

 早く帰りたい、そう思える程にねぱたが憧れるマイホームが今は少し遠く感じたのである。

 

 ******

 

 雲海の空に成仏するパープルの魂が落ちていく。

 

 (もし......生まれ変われるなら、また舞台を目指したいな)

 

 意識も失われつつある彼は、最期の願いを抱きつつ地上に向かい成仏する。

 

 地上にたどり着く前に拡散するであろうその魂は......満たされていた。

 パープルと言う役を演じきった役者の魂そのものだ。

 

 しかし最後に彼に向かってくる霊体が居た。

 

 (......! )

 

 ゆっくりと落ちていく特撮フィギュアのボディから、大きく腕を広げたねぱたの霊体が出てきて、小さな魂だけになったパープルを抱き止める。

 

 (ああ......)

 

 (あったけえ......迎えが来るなんて俺は幸せ者だなあ......)

 

「間に合うたわ大根役者! 最期の位看取ったるで......ウチが成仏を看取るのはアンタで三人目やけどな」

 

 パープルは最早返事も出来ない。

 ただただ彼女に看取られる事に、有り難みを覚えて泣いた。

 

「安心して成仏し......最後にアンタのファン1号になったんやで、来世でも頑張りや」

 

 ねぱたの腕の中で成仏の光が弾ける、パープルの魂はこうして......

 

「願わくば......来世でまた会える事を......」

 

 ......ねぱたの祈りと共に、蛍の様に儚く消えた。

 

 ******

 

 数時間後。

 

 ねぱたはとある路上の街路樹の森に落下。

 奇跡的に助かったと本人は言う。

 

 パープルの成仏光から最期の願いと共に霊力を僅かに譲り受けて、落下の速度低下と衝撃の緩和に成功。

 

 更に街路樹がクッションになり事なきを得た。

 

「助かったわ......」

 

 しかしながらボディは既にボロボロ、霊力漏れが奇跡的に無いだけが救いである。

 

「手足は以外と壊れんかったな、ダメージも落下衝撃もアーマーパーツに肩代わりさせて貰ってただけあって無事や......けど」

 

 アーマーパーツへのダメージ集中と言う小技による軽減方法は、ほとんどのアーマーパーツを亀裂破損させている。

 

「借り物なんやった......困ったわ」

 

 そんなねぱたの所に見慣れた大きな車両がやってくる。

 外見がオンボロの白いキャンピングカー、白い塗装も多すぎる外装で目立たない。

 シトロエンバスを彷彿されるキャビン、キャンパー部分は箱の様な形状。

 

 ザジ達の亡霊の根城であるキャンパー「希望の方舟」号である。

 

「なんや、カンチョウ......えらい早うウチを見つけたな」

 

 キャンパーのサイドパネルが展開し、運搬用ワイヤーに吊るされたカンチョウがねぱたの回収を行う。

 

「ねぱた君無事でよかった、ちょっと追跡に手間がかかったよ」

 

 ブロックトイのメックスーツで、ねぱたの特撮フィギュアを抱えると。

 

「早速だが、すぐにでもレストルームで回復して、改めてボディをドクから受領してくれないか?」

 

 ねぱたに激励の言葉をかけたのちに新たに作戦を語る。

 

「は? ちょっとカンチョウ? 亡霊使い荒いで、ウチもう百年位寝てたいんやけどー! 」

 

 ふて腐れるねぱたにカンチョウが笑って返す。

「何ワロてんねん」状態のねぱたが......ふと状況を察した。

 

「あ......まさか」

 

「そうだ、地下帝国からの許可も特別に貰ったんだよ」

「僕達の出番が近いってね......」

 

「こりゃおちおち休んでられへんなー、劇でも見てゆっくり感動したかったわ」

 

 カンチョウはメックスーツから顔を出して、すっとんきょうな顔をする。

 

「劇に興味あったのかね? 」

 

「何でもないわ、特撮の俳優出てたら観に行くけどな......」

 

 そう言うとねぱたはそのままキャンパー収用され、キャンパー内部のレストルームで疲れを癒しに行った。

 

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