第106話「高度一万五千メートルの戦い」
元来、玩具サイズの彼らのボディの殴り合いなど意味はない。
可動範囲うんぬん以前に、衝撃力を生み出すに必要な体重を持ち合わせていない。
剣での打ち込みでも同様で、刃が通らない体である以上、意味を持たない。
よって彼らの殴り合いは常に霊力が伴う。
ねぱたはワイヤーアクションの様に霊糸で引っ掛けて移動しつつ殴り付ける。
「おりゃああ! 」
だが霊力が上乗せされても、吹き飛ぶ力が強くなるだけで、決定的なダメージには至らず。
「食らえ! 」
パープルの放つ銃弾も、至近距離まで詰めないと威力を発揮しない。
放った銃弾が、バリアと装甲を抜けずに弾かれる。
(もっとだ......もっと近づけ、顔面にゼロ距離で弾丸を食らわせてやる! )
パープルの読み通りにねぱたを誘導出来れば、お互いダメージが確定しない状況で大きくリード出来る。
(全力で決め技食らわせれば、こっちのモンなんやが......)
ねぱたもまた、切り札を使う機会を伺っていた。
「パープルさん! 」
フォッカーにボディを半壊させられた教団亡霊ポリマーが、助太刀に入ろうとするが......
「サシの喧嘩だ、フォローは要らねえ! 」
パープルが口上で止めさせた。
「粋なことするなあ、チャラい見た目に騙されたわ......ええ男しとる」
ねぱたが以外にもこれを賞賛。
だが気を抜く事なく殴り付ける。
「てめえ! 褒めながら殴るんじゃねえ! 後、見た目がチャラいのは公演でこう言う端役に抜擢される事が多かったんだ! 勘違いすんな! 」
吹き飛びこらえて、パープルが殴り返す。
心に残る劇団に所属していた彼の過去が、彼の未練として燃え揺らぐ。
お互いに狙う間合いがハッキリし始めると、一旦立ち止まった。
「せやな、ちょっと演技がキツい思てたわ......アンタのホントの演技ちゃうんやな?」
語りながらねぱたが間合いを詰め始める、ねぱたも何やら必殺の間合いを考慮している。
「ああそうさ、だから見せてやる! 俺の公演、一人しか居ないけど気にすんな! 」
「 開演だ! 」
パープルは、激しく動きアクロバットなアクションを決めながら、ねぱたへの距離を詰め寄る。
アクションヒーローの様な、派手な動き......
彼もまた、ヒーローの様な主役に憧れた......一人の演者である。
対峙するねぱたが、思わず見とれる位の派手で精練された綺麗な動作だ。
「はっ......! 」
パープルは、一足早く必殺の間合いにたどり着いた!
「幕引きだ! 特撮女! 手持ちの全弾持っていけ! 」
ねぱたの特撮フィギュアに絡み付く、薄いベルトの様なモノが投げ付けられる。
そうそれはガンベルト(弾帯)だ、それには銃弾が10発程付いており、それをねぱたのボディに絡めると......
盛大に暴発させた!
「なっ......! 」
ねぱたが驚きの表情を見せる、爆竹が弾ける様な音がけたたましく鳴り響く!
「もらった! アンコールは要らねえぜ! 」
10発の銃弾の暴発の煙から銃弾の嵐でボロボロになった、ねぱたの特撮フィギュアが姿を表す。
パープルはそのボディを掴み、至近距離の間合いを確保したかと思えば!
ねぱたの特撮フィギュアのボディの顔面に、銃弾発射機構のある右手をかざし、銃弾を発射した!
「この距離なら防げねえだろ! 頭が吹き飛ぶまで、弾丸を喰らいやがれ! 」
「......! 」
一発、また一発と、銃弾がねぱたのフィギュアボディの顔面に撃ち込まれる!
ねぱたの特撮フィギュアの顔パーツ、アーマートイの仮面部分が半分欠けると、仮面の下の顔パーツが覗かせた。
......だが。
「残念やったな! 防がれへんのはお互い様や! 」
特撮における仮面の破損は、一種のフラグ。
そうと言わんばかりにねぱたが、撃ち込まれようとしている弾丸が収納されているパープルの右手パーツを掴むと......
そのパーツが銃弾の「暴発」で弾け飛ぶ!
「銃弾の火薬はウチでも点火出来るんや! 全弾とか嘘やろ! 」
「解ってるで! アンタみたいなんは、ちゃっかり腹にでも隠し持ってるんや......出してみ! 」
「 ! 」
ねぱたの反撃が始まった!
今までの殴り合いによる膠着状態が嘘のように、決着に向かって結果が動き始める。
「殴り付けた時に探り入れたから、解っとるで! 」
「ここやな! 」
ねぱたがパープルのボディの腹に手を当てる、ねぱたの霊力がパープルのボディに入り込む!
......するとパープルの教団亡霊特有の人体模型ボディから、渇いた爆竹の様な爆ぜる音が聞こえた。
「ぐおおお! 」
銃弾の暴発でパープルのボディに穴が開く!
よろけ崩れるパープルの眼前には、回転しながら飛び上がるねぱたの特撮フィギュアがあった。
「ウチからのカーテンコールや! 取っときや! 」
特撮フィギュアの足を広げてプロペラの様に回るねぱた、一回転半......五百四十度の回転から、袈裟斬りを降り下ろすかのような強烈なキックが放たれる。
「ハイ・ファントム! 斜め旋風脚! 」
ねぱたが霊力スキルのキックを見舞う、だが一撃では止まらない!
着地と共に、地面に足で円を描き擦る様に姿勢低く回転すると、すかさず回転の勢いそのまま......
「ハイ・ファントム二段回し蹴り! 」
このねぱたのコンボ技による衝撃が、パープルに大きな隙を作った。
「くそ、くそおお! 」
防戦一方のパープルは、バリアを立て直そうと、霊力を振り絞る。
だが既に立て直す頃には、バリアでは防ぎ切れない一撃が、パープルの眼前に現れたのである。
「......あ、ああ......」
二段蹴りの勢いからフワリと飛び蹴りの動作をしつつ、切り札の一撃を溜めていた......
ねぱたの特撮フィギュアがそこに居たのだ。
「これが全力や! ......ハイ・ファントム! フィニッシュ・キック!! (クイック起動) 」
ねぱたのトドメの一撃。
それはパープルの霊体を通りすぎ、射抜くように人体模型のみを打ち抜き、周囲に破壊した人体模型のパーツを散乱させた......
後にゆっくり振り返るパープルの背後で、ねぱたは舟の霊体の甲板を引っ掻くように擦って滑っていく。
「すまない......パープル、こうするしかなかった......」
パープルに語りかけるシラ。
これはつまり、パープルの人体模型ボディへの憑依が、シラによって強制解除されたという事だ。
敗北を悟った彼は、霊体のまま立ち尽くして遥か空を見上げていた。
「まいったな......演目が終わっちまった......」
パープルの霊体は青白く光始めていた......
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