第105話「高度一万二千メートルの戦い」


 ******

 

 ザジ達が戦っている場面から離れ、舟の霊体のすぐそばに追従していたパルドとユナに視点が変わる。

 

「ぎゃああ、凄い風がががが!! 」

 

 けたたましく叫ぶユナ、それもそのはず、彼女の視界一杯に広がるのは果てしない雲海である。

 

 高度も一万二千メートルを超え、突風も激しくなり飛行船ドローンも本来は追従することが不可能だったが......

 

「アンカー無かったら今頃飛ばされて追えなかったぜ......」

 

 景品ごっこのフリをしてたユナが、舟の霊体にこっそり繋いだ釣糸のアンカーによって、霊力消費を減らして追従が可能になったのであった。

 

 そんなユナとパルドの前に見慣れた影が近寄ってくる。

 

「パルド、ユナちゃん! 用救助亡霊一匹! レストルームの収用を頼む! 」

 

 そこに現れたのはドローンボディのフォッカーだ、戦闘中にも関わらずよしこの霊体を避難させるために、アンカーを辿って飛行船ドローンまでやって来た。

 

「ええ! よしこさん! ボディがやられちゃったんですか! 」

 

 フォッカーの霊力に引っ張られたよしこが、まるで人間のような姿の霊体になりユナに語りかけた。

 

「悔しいですが......もう戦えないワン......」

 

 ボロボロの霊体で飛行船ドローン内部のレストルームに収用されたよしこ。

 レストルームに内包されたザジの残り香の霊力がよしこの霊体修復に使われる。

 

「フォッカー、犬霊のよしこだから霊力コストも低くて楽に修復できるが、ザジの残り香ももう少ないぞ」

「おおよそあと霊体一人分が限界だ、俺の霊力では飛行船で手一杯だからな」

 

 スキルによる霊力のロスは、本体の回復力に上乗せすればコストも少なく回復できる。

 だが霊体のダメージは別で、大きく霊力を消費するらしく、霊力キューブ程度では足りないようだ。

 

「わかった、すぐにケリをつけなきゃな......俺はザジとねぱたの所に戻る、二人共よしこを頼む! 」

 

 そう言うとフォッカーは再び戦地に戻る、飛行船ドローンのアンカーを辿って、フォッカーのドローンボディは舟の霊体を目指して飛び去った。

 

「大丈夫かな......ザジ君」

 

 不安そうに見下ろすユナ、そんな彼女の視界に何か不思議なモノが移った。

 

「 ? 」

 

「え......? あれ? 」

 

 ユナはその光景にキョトンとしている、あり得ない光景にも見える。

 

「あの雲......追いかけてくる様に見えるんだけど、まさかね......ハハハ......」

 

 ユナの視界に移るもの、巨大な積乱雲。

 その巨大な積乱雲に「何かがトグロを巻いている」様に見えるのである。

 そんなユナに飛行船ドローンを操縦しているのパルドから、語りかける声が聞こえてくる

 

「ユナちゃん、舟から離れすぎたからそろそろ距離を詰めよう、ドローンの後ろに取り付いてブースターで押せるかやってみて! 」

 

「はい! わかりました」

 

 ユナは命綱で固定しつつ飛行船ドローンを、ブースターで押せるように配置に付く。

 

 (気のせい、気のせい......)

 

 そんなユナの想いとは裏腹に、積乱雲は近付いてきているようだ。

 

 ******

 

「シラ、すまねえ......最期のオリジナルボディを失っちまった」

 

 キョウシロウの霊体は憑依していた人体模型を失ない、シラの周囲をさ迷っていた。

 

「危なかったね、咄嗟にオリジナルボディの取り消し操作がギリギリ間に合った」

「間に合わなかったら相手のボディごと地上に真っ逆さまだよ......」

 

 シラによるフォローが間に合ったようで、キョウシロウは舟の霊体内に止まる事が出来るようだ。

 

「新たにボディを設定するにはかなり時間がかかる......どうやら俺はここまでのようだ......すまない」

 

 人体模型のボディは、思いの外霊体のダメージをフィードバックする、そのせいかキョウシロウの霊体がボロボロになっていた。

 

「キョウシロウは舟の中で霊体のダメージを癒してくれ、後は僕とパープルとポリマーが何とかするさ......」

 

「頼む......」

 

 舟の霊体内に沈んでいくキョウシロウ、それを見るパープルは苛立っていた。

 

「絶対勝つぜ! もう撹乱が得意な犬霊も居ねえ、押しきるぜシラ! 」

 

 パープルは銃を構えると、ザジ達に淡化を切る。

 

「 ! 」

 

 ......だが逆にそれはねぱたの逆鱗に触れた。

 

「 舐めんなやああああああ! 」

 

 怒りを露にするねぱた。

 放出する霊力は、この場に居る誰よりも豪快で強大だ。

 

「よしこの時間稼ぎを無駄ちゃうんや、あんたらを掻き回した分の時間でこっちは霊力の回復はバッチリやで! 」

「今からよしこに聞こえる位ごっつい一発かましたる! ブッ飛ばされたい奴から前に出ろや! 」

 

 ねぱたのキャンパー面子に対する、"家族"の様な繋がりの意識は測り知れず。

 その巨大な霊力は危ぶまれる事で増大する。

 シラはそれを見て語る。

 

「これもまた、彼女の"未練"が成せる力なのかな......」

 

 シラはそれを羨ましく見る、だがそれを見て苛立つ教団亡霊パープルは、淡化を切るのをやめない。

 

「ああ? やってやろうじゃねえか! サシで勝負だ、手助けは要らねえ! 」

 

 ねぱたとパープルは互いにボディが向かい合い、近距離まで間合いを詰めると......

 

 一気に殴り合いを始めたのだ!

 

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