第103話「高度三千メートルの戦い」


「折角、二依子に改修してもらったオリジナルボディを傷付けやがって......」

 

 ザジはやや憤りを見せる、だがこうやってボディもバリアも削られると、いつかは真っ二つだと確信した。

 

「プラズマを直に霊力で伸長操作してレーザーに乗せてぶつけてきたのか......」

 

 ザジは金属切断工場のプラズマレーザーの原理、更に霊力を加えた攻撃行動と瞬時に見抜いていた。

 この以外に博識なザジに感心しているのか、シラはあっさりマジックの種を明かしてくる。

 

「弾幕の様にレーザーポインターを当てているけど、その程度の熱じゃあ、君達上位亡霊には無意味だからね」

「加熱状態のプラズマを霊力で消滅しないように"伸長固定"しつつパルスレーザーで誘導発射する......」

 

 そう言うと、ザジの足元にプラズマがレーザー光線に乗って熱ビームとなり地面に着弾する。

 

「この舟の副砲と言った所だ、これも君達の様な亡霊に対する対策だよ」

「何せこれは技術的には重いが霊力消費量が軽い、その代わり電力消費が笑えないから今まで使えなかった! 」

 

 シラのジョークにも取れる解説が「とても優雅」に見える。

 目の前にいたザジとねぱたは、その姿を睨み付けていた。

 

「君達と同じように霊力でニードルを撃ち合えば楽だろうけど、そうすれば霊力の威力的に僕達が負けるんだ......」

「物量で押すために高熱のプラズマの射程を、伸長する努力と工夫は誉めていただきたいね。」

 「さあ君達はどう闘うんだい? ザジ君......」

 

 ザジとねぱたはレーザー光線のポインターの位置を確認、この舟の甲板から飛び出したと言うことは、シラの周囲以外にも設置してあると見ていい。

 甲板の上にいる時点で罠に飛び込んだ様なモノだろう。

 ザジはプラモデルボディの盾のパーツを構えると、霊力スキルを使用する。

 

「ハイ・ファントム・クリスタルシールド! 」

 

 ザジは自身のバリアに上乗せできるサブバリア能力を使用。

 盾に付着した霊力結晶がバリアを個別に発生持続させるという、攻防一体のスキルを起動させる。

 

 (なあ......ザジ、ええか? )

 

 他には聞こえにくい霊声の小声でねぱたはザジに語りかけてきた。

 よく見ると、霊糸がザジの体にくっついている、まるで糸電話でもしているかのような交信方法である。

 

 (ねぱた姉さん? )

 

 (ウチの霊力はもう結構消費してるねん、大技で使い切って無防備になったら、この船からすぐに飛び降りる必要あるわ......)

 (バリアも無いのにプラズマレーザーなんかに焼かれたら、即効で御陀仏やし)

 

 (でも......落ちて無事なのか?)

 

 困った表情のザジ、落下したときのダメージを心配しているようだ。

 

 (落ちても心配いらん、小さいボディやさかい、うまく行けばダメージも少ない......)

 

 (そうか......! )

 

 ねぱたの言う通りだろう、高高度落下しても軽いザジ達のボディでは地面が固くてもダメージが薄い。

 軽いので物体の落下速度に空気抵抗がかかり、地面に叩きつけられる速度と衝撃は低い。

 

 (よしこはフォッカーがフォローできる、ウチが他より限界が早い筈や......やけどな)

 

 (一匹は"道連れ"にはしたるで)

 

 ねぱたの覚悟に動揺するザジ、だが他にも"道連れ"を宣言する者がいた。

 

 (ワオオン......)

 

 犬霊よしこだ。

 

 彼女も自らのダメージが限界であると判断していて、ボディの大破が確定しない内に退避が求められる。

 

 霊力の消耗の大きいねぱたと、ボディのダメージが大きいよしこ。

 

 この二人の最期の駆け引きが、双方で交わされる。

 互いに勝負に打って出る気だ。

 

「何コソコソ相談しているんだ?! 相手を忘れたか? 」

 

 そう叫んで剣で斬り掛かる教団亡霊、キョウシロウがねぱたに襲い掛かる。

 

「燃え上がれ! 天の炎刃! 」

 

 キョウシロウが剣を構えると、シラのレーザーからプラズマの炎が飛び、刃に付着する。

 キョウシロウは、プラズマを剣に付着固定できるようだ。

 

「バリアでガードしても、ボディが焼ける炎の刃だ! 大人しくブッタ斬られろよ! 」

 

 キョウシロウの炎刃が振りかぶられ、ねぱたが剣で受け止める。

 

「......ぐっ! 」

 

 キョウシロウの言う通り、バリアを通して伝わる熱が、ねぱたの特撮フィギュアの腕を僅かに焦がす。

 

「借り物に何て事すんねん! 」

 

 ねぱたがキョウシロウから奪った、金属製の剣で受けを取るが反撃に転じる事無く、蹴り返して突き放し、後退りすると......

 

 「交代や! よしこ! 」

 

 合図と共に、ねぱたとよしこが交錯する。

 教団亡霊キョウシロウの前によしこが立ちはだかり、教団亡霊パープルの前にねぱたが対する構図になった。

 

 これは剣相手では、ねぱたが戦いにくい......

 銃弾相手では、よしこが戦いにくいという......

 双方の判断の結果で決断されたものだ。

 

「チッ......殺りにくいぜ」

 

 キョウシロウが愚痴を漏らす。

 よしこはキョウシロウの剣の間合いを素早さで脱出し、ヒットアンドウェイを仕掛けられるようになる。

 対して......

 

「畜生! 効きやがらねえ! 」

 

 撃ちまくるパープルの二ミリの銃弾を、ねぱたはバリアで威力を抑え込み。

 バリアを抜けて来た弾丸を、特撮フィギュアに有りがちな、ダイキャストパーツのアーマーで弾く。

 防御の厚さで圧倒し始めたのである。

 

「キョウシロウ! パープルさん! 」

 

 上空からプラモデルボディのままである教団亡霊ポリマーが、射撃による支援攻撃を行おうとするが......

 

「オメエの相手は俺だよ! 」

 

 よしこから外れたフォッカーがポリマーの背後を追従してきた。

 

「よしこの機動力は俺が居ない方が良いからな、攻撃能力は落ちるがやむを得ない! 」

 

 空中でポリマーとフォッカーによる、激しいドッグファイトが始まった。

 

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