第102話「高度千二百メートルの戦い」


「クソったれ、さっきまでの犬なら反応して飛び上がるだろうから、そこをポリマーが撃てばぶっ飛ぶのに......」

「中身の主導権はあの背中のドローン野郎かよ」

 

 フォッカーとよしこはコンビ亡霊だ。

 互いのボディの主導権は上手く制御出来ていて、よしこの過敏な挙動をフォッカーが抑えている。

 

 一撃を繰り出した教団亡霊パープルは、そのままよしこに噛みつかれるのをかわすと、相方のポリマーの元に戻る。

 

 彼らもまた、コンビで闘う教団亡霊の様で事前に打ち合わせたコンビネーションを、どの様にねじ込むかと言うの作戦を練っているようだ。

 

「オッケー、ポリマー......"アレ"を解禁だ!」

 

 そう言うとパープルが指でピストルを撃つ構えを取った。

 

「 ? 」

 

 よしことフォッカーはその行動にやや困惑、だがよしこはここで反射的に身構える。

 

 パープルがそのまま空虚なピストルのトリガーを引いた様に、仕草をすると......

 

 花火の様な乾いた轟音が鳴り響いた!

 

「ギャワン! 」

 

 突然響くよしこの鳴き声、大きく弾け飛ばされるよしこ。

 だが舟の霊体の甲板から落とされるのを免れると、よしこは激しく睨み付ける。

 

「ワオン(銃弾......)」

 

「なんだと! 」

 

 パープルの指の仕草では装備は判別出来ない。

 何故なら彼らは精巧な人体模型に霊体をトレースしているボディの為、人体模型の腕の中に銃弾を仕込んでも外見では見抜けないのだ。

 

「コイツだけでも落とせたら楽なのによ、ダメージだけでも良しとするか......」

 

 よしこの狼型プラモデルボディの肩アーマーが激しく破損している、大半が弾け飛んで間接部分が露出していた。

 

「勢いを殺したのに、結構ダメージ食らったな......二ミリ弾か? 」

 

 フォッカーが弾丸に覚えがあるらしく、冷静に分析し始めた。

 フォッカーの覚えのある弾丸、それは世界最小の弾丸である二ミリ弾である。

 亡霊に銃弾特有の殺傷力は効果が無いが、装甲の薄いタイプのボディには十分に効果があるようで......

 霊力を乗せて放てば、霊力相殺で亡霊のバリアを抜けてボディを傷つけられる、そう考えたシロモノの様だ。

 

「対亡霊(俺たち)を想定して銃弾の製造してたってか、地下帝国の亡霊にもそう言う奴らが生産してたけど......」

 

 フォッカーが語る間にパープルが間合いを詰める。

 パープルが再び攻撃の気配を見せると、補助をするポリマーも追従する。

 

「どうした? 犬ッコロ! さては撃たれて死んでもしたか! 」

 

「てめえ......」

 

 フォッカーがパープルの言葉に怒りを見せた、よしこの死因はその言葉通りでのようだ。

 

「もう一度だ! 」

 

 教団亡霊パープルによる射撃攻撃、今度は空気抵抗の受けないように間合いを詰めて来る、確実に仕留める為に......

 

 一発、二発、三発。

 

 一発はパープルの指の仕草から、腕に内蔵した銃弾の発射機構だと思われる。

 

 咄嗟の回避により、空中によしこが逃げる。

 

 二発は、空中に逃げたよしこを教団亡霊のポリマーが、プラモデルのボディに取り付けた発射機構からの射撃。

 

「ギャワン! (危ない! )」

 

 よしこがバリアを尖らせて前方に展開する。

 ポリマーから放たれたのは一度に四発の銃弾。

 それぞれバリアで反らされる形になったが、僅にしか反りを与えることが出来ずに、よしこの狼型ロボットのプラモデルボディが傷つけられる。

 

「直撃は避けたが、これで終わりだ! 」

 

 三発。

 

 パープルは内蔵型の発射機構とは別に、ダブルバレルショットガンの様な銃器を構えると、だめ押しと言わんばかりにトリガーを引こうとする!

 

「チッ......! 」

 

 ここで舌打ちしたのはフォッカーだ。

 ボディであるよしこのプラモデルボディに、接続された背中のフォッカードローンがプロペラアームを畳んで変形すると......

 

「 ! 」

 

 フォッカーのドローンから、細長い銃身の様なパーツが競り出した!

 

「いい加減にしろよ! てめえら! 」

 

 フォッカーがまるで......

 

 「じょうご」(ペットボトルに水を入れる時に便利な道具)の様なバリアを張ると、パープルが放った銃弾が吸い込まれる様に誘導される。

 

「ハイ・ファントム・バレットインダクション! 」

 

 誘導(インダクション)されたパープルの弾丸はフォッカーのドローンから競り出した、銃器の射線に沿っていくように誘導されると......

 

「そらよ! 」

 

 フォッカーのドローンの銃身から同じ二ミリの銃弾が放たれ、パープルの放った銃弾を撃ち、双方の弾丸が砕けた。

 

「......まったく"隠し球"が被るとか、最悪だな」

 

 フォッカーはそう言うと、荒ぶるよしこを宥めて、パープルと銃身を向き合わせた。

 

 

 その攻防を見ていたザジ、ねぱた両名が慌てる。

 それは言葉にしてザジ達の弱点でもある戦術。

 

「物量による"持久戦"......」

 

 この言葉を口にしたザジに、シラがニヤニヤと笑い拍手しながら答えた。

 

「そりゃそうさ、僕達はまず君達みたいな上位亡霊程の技量が無い......」

「つまり......その技量を道具で補ってるわけさ、君達は強力なスキルで圧倒してくる......僕達は"ソレ"を防御できれば疲弊した君達を倒すだけだ! 」

 

 シラの解答と同時に、舟の甲板から沢山のレーザー光線を発射する装置が飛び出すと、一斉に照射。

 

「電力だって舟から出せるからね、プラズマレーザーで綺麗な断面図を見せてよ! 」

 

 レーザーの弾幕はザジとねぱたのバリアを大きく削る。

 バリアを抜けて来たレーザーの熱が、ザジのプラモデルボディの肩装甲の一部を僅かに変色させる。

 

 

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