第3話エピローグ③「追跡者」

時間が過ぎ、しっかり日も暮れていた。

 黒服達の捜索は困難を極めていた、逃げ込んだ先々は道路側と言うこともあり、人目につくのが気になっている様子。

 

 「下手に出れない…」

 

 ユナは街路樹の繁みに身を隠し、道路反対側に逃げる機を伺っていた。

 それを超えるには横断歩道を渡れば良いが、すでに疲労がピークに達しているのか動きが鈍く遅い。

 

 「このまま信号待ちで待ってても捕まってしまうし、信号が変わって渡れるようになっても横断歩道の真ん中で立ち往生、そのままタイヤに潰され大往生…」

 

 あれ?ちょっとラップになってる、などと考える位の能天気さを見せているが情況は依然として好転しない。

 

 そもそも霊体に疲労感は薄いが、目に見えて動かすヌイグルミの体が重くなっているのが見てとれる。

 

 幽霊も疲労するんだと感心している場合ではなく、黒服達はまだ近くを捜索している為にユナの緊張感は緩まない。

 

 今幸いと言えばこんな体で在るが故に、冷静沈着を保っている事位だろう。

 

 「やはり、アレしかないのですかね」

 

 ここで彼女の言うアレとは目の前に写る階段、つまり立体交差の事だ。

 これなら信号待ちも立ち往生もなくすんなり向こう側へたどり着くだろう。

 

 「昇るのを見られません様に!」

 

 残る気合いを振り絞って立体交差の階段をそそくさと昇るユナ、小さなヌイグルミであるせいか幼い仔猫が初めて昇る階段の様におごつかない昇り方だ。

 

 「高い!一段一段が跳び箱より高い!」

 

 それもそのはず、ヌイグルミの全長は15㎝にも満たない。

 加えて霊体の疲労も重なり一段上がるのも一苦労である。

 

 「ぬおおお!上がってええ!」

 

 30分かかってやっと立体交差の階段を昇りきった頃には立つのもやっとな状態になっていた。

 

 「ひいこら…ひいこら…」 

 

 何処からで拾った木の枝を杖の代わりにして情けなくヨレヨレ歩く様は、完全にオートバイブレーションお爺ちゃん。

 

 「アハハ、ここの陸橋こんなに広かったかなあ」


どうやら以前に昇った朧気な記憶が有るらしく、記憶の中では渡りきるのに何分もかからない、だが疲労も末期なせいか平坦な場所でも移動が困難を極めていたのである。

 

 「よし!」

 

 「今だ!全員上がれ!」

 

 そのスマホからの掛け声と共に一斉に黒服達が陸橋の階段を駆け上がってきた!

 

 「ギャアアア!」

 

 声にもなってない汚い轟音の霊声を放つユナ、時すでに遅し。

 

 「酷い!絶対上がるの解ってて待ってたんだ、人がひいひい上がるの見ながらクスクス笑ってたんだ絶対!」

 

 ユナが叫ぶ、だいたいその通りの予想で文句を垂れつつ中指(?)をおっ立てて首をブンブン降る様は、とても往生際の悪い。

 

 「やっと見つけたぜ!仔猫もとい子熊ちゃああん!!(ハート)」

 

 その声と共に陸橋の対岸の方からも黒服達が上がってくる。

 そらそうさね、30分もかかって昇ってるんだもん、黒服達は下の横断歩道を何度も渡って居るさ。

 

 「あああ…もうダメ!助けて!お願い誰か!ああああ…(ヤケクソになって)畜生!覚えてろ!殺(や)れよもう!一思いに殺(や)れええ!」

 

 追い詰められると途端に汚い言葉を発するストロング一家の長女、さしもの彼女も年貢の納め時と来たようだ。

 

 「ヒャッハー、長かったサービス残業もこれで終わりだー!」

 

 なんとも悲しい事実を振りかざして手前の黒服達の何人かがサービスライターとキンチ○ールを手に、火炎放射器ごっこしながらにじり寄る。

 街中なので是非止めていただきたい。

 

 「あああ…私の人生ここまでね…熊のヌイグルミで終わるとか波乱繁盛だったわ…」

 

 目の前に燃える臭い火を見ながら、ユナは空を見上げて諦めの姿勢を見せた。

 

 だが…

 

 その時、聞こえる声がある!

 

 そう、霊声だ

 

 そしてこう聞こえる…

 

 「そこを動くな!」

 

 と。

 

 「…へ?」

 

 ユナは急に素に戻る、空を見上げていた彼女になにか真っ直ぐ落ちてくる何かが見えたと思えば…

 

 「うわあ!」

 

 黒服達が一斉に騒ぎ出す!

 

 陸橋に突然発砲されたかの如く火花が激しく弾けると、怯んだ黒服達がしゃがみこむ!

 

 それと同時にユナの体に空から同じくらいのプラスチックの人形の塊が…

 

 厳密に言えば1/144系のロボットのプラモデルが飛び込んできて、ユナのヌイグルミの体を抱えて陸橋の隙間から道路に飛び降りたのだ!

 

 「うわああ!」

 

 ユナは声にならない霊声を上げていたが、体は何かに着地、ふとユナが周囲を見上げてみるとどうやら車の屋根の上の様だ。

 

 屋根とは言うもののかなり広くデコボコと部品が付いてる、通り抜けるガラス貼りのビルが全容を写し出す。

 

 それはシトロエンバスっぽい外装と荷台にスター・ウ○ーズのサンドクローラーの様なキャンパーの載ったキャンピングカーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る