第一章 はじまりの会合編
第2話エピローグ②「斯くして少女(クマ)は目を覚ます」
暫くの時間が経つ。
場所は代わってビルの外。
救急車のサイレンがけたたましく鳴り響くと、延命処置を済ませた少女を乗せて走り出した。
その様子をコッソリ見ている様に佇む小さな何か。
街灯によってハッキリと写し出されたその小さな姿は。
彼女が鞄に付けていた景品のヌイグルミである。
「あれ…」
「なんでこんなに地面が低いの?」
「私こんな所で寝そべって何してたんだっけ?」
ヌイグルミはゆっくり立ち上がる。
「あれ…私立ち上がったんだよね、あれれ?」
視界はまだ低いままだ、身長の基準がヌイグルミだと言うことに気が付いていない様に見える。
「うーんちゃんと立ち上がれ私!」
ヌイグルミの背中に白いモヤがかかった霧のようななにかがハッキリと見え始める。
やがてそのモヤは人の形をし始めた。
「あれれなにこれ?どうなってるの?」
そして先程の少女の上半身程度にも満たない白い影に変わる。
その白い影、つまりは霊体と呼ばれるモノを背負う形になったヌイグルミは。
ハッキリと少女の意思を保有して存在しているのである。
「なにこれ?私のプライズのヌイグルミじゃない?こんなに大きかったっけ?」
現在彼女の視点はゲームで言うとクォータービューの様な視点であり、霊体が付いているヌイグルミに対する認識が軽く錯乱しているに等しい。
「体が張り付いてる?なにこれどう言うこと?」
着ぐるみから自分が半分飛び出した様な感覚で近くをフラフラと歩き始めていた。
そして雨が降っていたのであろう、たまたま近くに溜まっていた水溜まりで写った自分の姿に驚愕する。
「はあああああああ!?」
ようやく彼女は自分の体がプライズのヌイグルミに変わった事に気がつく。
「どう言うこと!?この状態どうなってるの?!」
そんな彼女がなにか思い出したかのように振り返り、背中を霊体の角度で見る。
「まさかこの札?待ってよ!式神になって逃げ出せば良いって思ったけど私を式神にしたら意味ないじゃない!」
そして彼女はそのまま過去の事を思い出そうとすると…
「えっ、なんで自分の記憶が朧気なの?なんで?体が遠いから?」
自分の記憶がつい最近まで以外はハッキリしない状態になっているのだ。
「あああ…あれまって自分の名前、名前」
落ち着いて名前を思い出そうとする彼女であったが出てこない。
すると近場で警察官が無線で喋ってるのを聞き取る。
「ビルの…ロッカールームで女子学生が倒れていた模様、どうぞ(ザーザー)」
「女子学生の身元は…学園…二年生、…町、ユナさん、…歳、どうぞ(ザーザー)…」
身長のせいか、聞き取ろうにも近付くには距離を感じる、だが彼女は自分の名前はわかった気がした。
「ユナ…ユナ…ユナ…、よしこれで忘れないね!なんでこんな色々と忘れてるのかなー」
そんなこんなしているうちに警察官は自転車で移動してしまった。
「あ、しまった!捕まって行けば良かった!体の所まで行けそうなのに…」
彼女(以降ユナ)がまごついているうちに別の足音が近くにやって来る!
その姿は覚えがあった。
黒服達である。
「ひいいい!ヤバイヤバイ!」
慌てて物陰に隠れる、もう夕暮れが過ぎていることもあってか見つからずに済んだ。
黒服達はなにやら作戦を携帯で話して居る様子だ、荒立っているのか声も聞き取れる程大きい。
「しょうがないだろう!こっちの札は困った事になったんだよ!…ああっ!」
「いいか!使われた札はな!戻せないんだよ!自力以外の方法がないし、やり方も失われてるんだ!」
「よく聞け!見付け次第処分だ!放置は厳禁だぞ!、札にどんな効果が発生していようが使われているなら戻せない、責任が問われる前に焼き払うしかないんだ!いいな!」
この声はユナの朧気な霊体にもハッキリ感じ伝わった。
「え?」
「待って?」
「焼き払うってちょっと、責任取って戻そうよ!大人の判断じゃないよ!」
ドタドタと足音が聞こえる、黒服達が集まってきたようだ。
「札の霊力は微弱だが感知出来なくはない、全員例のアプリを使え。」
黒服達が携帯を持ち寄って探し始めた、精度はかなり良い様子。
「これは…近いな探せるぞ!」
ユナは聞き取る為に近場に来ていた為に墓穴を掘る形になってしまったのだ!
「逃げなきゃ!またなの?この体になってもまだ逃げなきゃいけないの?」
慌ててユナは逃げ出す、幸いこの体では物音ひとつ発つことはない。
だが…
「近いぞしゃがめ!寝そべってでも見つけろ!」
黒服達が一斉に這いつくばった!
「ぎゃあああ!」
さながらホラーな絵ズラでほふく前進する黒服がガサガサと這いずり回る!
「居たぞ!あれだ!」
小銭を見つける様な感覚で発見されたユナは大量に伸びる黒服の手を掻い潜って走り出した。
「キモい!キモい!!」
上手く細い隙間逃げ込んで行くユナであったが、もう精神的に疲弊の兆候が見えていた。
「助けて!誰か!」
霊体の声は人には届かない、届いても気がつかないだろう。
虚しく響いて行くだけで彼女は霊体の力が磨り減って居るのに気がつかなかった。
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