2日目

と、こんなことがあったのが1ヶ月前。

真面目なんだかアホなんだかよくわからない会話をした、あれは卒業間際で神様がくれた贈り物なんだろう。

本当に世の中何があるかわからない、なんだっけいつも転がるサイに身を委ねてだっけ…魔界の話のop。

どっか違う気がするけど。

でも最後には転がるサイは自分の手の中にって、あれ好きなんだよな。

自分の進む道は自分で決める的なとこが…

「みやび、早かったな。」

相変わらず無表情で淡々と話す奴だ。

「久しぶりに会う親友に何もないわけだな」

「相変わらず親しい奴には図々しい奴だな。」

それは自分も親しいのうちに入れてくれていると言うことなのだろう…自意識過剰じゃないといいけど。

生憎と人の心は読めないもので。

「こっち戻ってくるのは3年ぶりか。細かい話は後で話す。」

そう言うと水脈は長い髪を翻し来た道を戻っていく。

私は大人しくついていくことにする。

背中に花火玉の笛の音を感じながら。

「穴場だねぇ…」

たどり着いたのは打ち上げられる花火がより大きく見える高台だった。

目の前に広がる大輪の花、火薬でできていることすら忘れさせる。

戦で不幸をもたらした炎のもとだって使い方を変えれば美しいものに生まれ変わることができるって、自分もできるだろうか。

それにしてもこんなにしっかり見たのはいつ以来だろうか、子供の頃は目にしただけではしゃぎまわっていたのに。

「水脈、今日はありがとね。」

「なんだ急に。」

「こんなしっかり見たの久しぶりだったから?かな」

水脈は何か言いたげだけれど馬鹿馬鹿しいという風にため息をつく。

さっきも花火の存在価値がわからないと言っていたし、私が好きだったというだけで連れてきてくれたようだ。

まぁ、それもすごく前の話なのだが。

そのほかにも理由はあると私は思っている、それが佐々夜 水脈という人間だから。

一石二鳥どころか十鳥くらいを手にできる確証がないと動かない。

水脈にとっては二兎追って一兎をも得ずなんてありえない。

近くにいるとわからないけれど、離れてみると相当変な奴だってことにあらためて気づく、自然と苦笑が浮かぶ。

ふと下に目をやると見知った顔をみつけてしまった。

「みやび、この町に戻ってくるつもりはないのか中学も地元で通うものだと思ってたが」

他人の眼をまっすぐに見つめて話す水脈の言葉はまっすぐで、まっすぐに胸に突き刺さる。

だけど今の私は見つけてしまったあの顔に気を取られてしまっていた。

「それもいいかもね、引っ越したの特に理由あったわけじゃないし」

嘘ではない、本当に唐突に思い立って兄に頼み込み、住処を移した。

本当に自分は他人の言われるままに生きてっていいのか、自分の心が空っぽのような気がした。

本当に理由でもなんでもない。

「戻ってこい、不安なら例の世話焼きな結川も連れてくればいい」

久々に会ったから多少は気を使ってしまったがやはり水脈と喋っているといい意味で疲れる、この感じが落ち着く。

お互い探り合って最低限しか言葉に出さないこの感じが 、他人からすればただ面倒なだけだろうけどさ。

やっぱり自意識過剰かな…また苦笑が漏れる。

「変わらないだろう」

一瞬なんのことだかわからなかった。

「え?あ、あぁ…そうだね」

水脈との会話はいい意味で疲れるとは言った、だけど含みのある言い方をして反応を探られて核心を突かれる。

私が水脈に頭が上がらないのはそう言う理由もあるのだろう。

本音を隠さなくてもいいというのは確かに楽だ。

だが、私の本能がそれを咄嗟に拒んだ。

「この街は他のところと時間の流れが遅い気がするよ。まあ、そんな3年で変わることなんて多くないだろうけど」

と、まくし立てる。

「あの女絶対面倒な奴だな。」

「女…?」

先程見つけた人物をもう一度探す。

本当だ、隣にはいかにも今時の若い子というようなタイプの子がべったりしている。

隣を見ると水脈が顔を歪めている。

おもわず笑ってしまった。

それに気づいた水脈は不服そうな顔をするけれど、

「ま、そういうことだ。心を一新して気軽に戻ってこい。」

と、珍しく笑ってみせた。

私のいない間にそんなこともできるようになってたかと思うと、私のいなかった時間がなんて惜しいのだろうと思う。

もう一度先程の人物に目を移す、

さようなら…私の初恋。

私なんかが好きになっちゃいけない人だった、私なんかが好きになっちゃってごめんね。

これで、終わりにするよ。

「お前やっぱり戻ってくるな」

「え!なんで⁉︎」

最後にはどちらからともなく笑い合った。

本日のメインは花火だったはずなのに…

なんだかんだ言ってもこれからも水脈のいない未来は想像できない。

これも水脈の計算?

そうだったとしても心地いいのは変わらない、これからも存分に甘えさせていただこうと思います、親友さん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る