武士じゃ無いのに、全国統一出来ました。
「平和ねぇ…!そして、あったかーい!」
春の日差しを受けて、結月は侍女の注意そっちのけで畳にごろんと寝転んだ。
北条を自分のもとに下らせた後、西からも東からも"配下に加えてくれ!"といった懇願が後を絶たず、北条との口論から1ヶ月弱で、全国の貴族や武士が結月の配下に加わった。
「退屈ですね、月夜ノ姫様ー」
光がのんびりとした口調で言う。結月もそうねー、と言いながら御簾を少し上げた。
「ちょっ、月夜ノ姫様!わたしのような者に顔を見せるなど…!」
「いいの、いいの。男だけど侍女みたいなものじゃない?それに、御簾が邪魔で桜が見えないのよ…」
といいわけをしながら光の顔を見た。当然のことながら、彼女の本命は光の顔を見ることである。
「あら、結構なことね」
「はい…?」
光と結月の目がバッチリ合った。すると結月は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あら、見たわね?神の御使いとも言われる天皇の顔を…。あらぁ、処罰しなければなりませんねぇ…。最後に何か言うことは?」
そう言いながら、結月は刀を手にした。笑顔を崩さずに。
「それでは…。月夜ノ姫様、何か面白いことしてくれませんか?」
「いいわよ、冥土の土産にでもしてちょうだい」
とひとしきり茶番を打った後、結月は「とと様ー!お話があるの、来てくださるー?」
と大声で叫んだ。
すぐに朝陽天皇が現れ、「どうした?」と結月に聞いて来たところで、結月は口を開いた。
「あれは、まだわたくしが小さい頃ね。
雨が降りそうな空の日、わたくしは庭で遊んでいました。短歌は嫌いでしたので、花や虫と戯れていましたがね。
その時、雨が降り始めて来て。車が濡れるのを恐れたとと様が焦って言ったんですよ、侍女に向かって。
"車が降って来たから時雨をしまっておいてくれ"って!」
「あ、それはっ!…なんで結月が知ってるんだよ…」
朝陽天皇の顔が真っ赤になって、結月は笑い出した。
「それで、…侍女はこう思ったそうですよ…。
"車軸でも降ってくるのかしら。犠牲者が出るに違いないわ…!"って!
それで、侍女は笑いながらも慌ててしまったらしいわ…時雨…、じゃなくて車を」
「さすが、天然天皇ですね!おっしゃることが違う!そして、その侍女も良いセンスを持ってらっしゃる!」
「でしょでしょ!車軸なんてわたくしには思いつかないもの!」
天皇が普通の人の前に顔を見せたり、十二単を毛嫌いしたり、罵倒するなんて普通の史上では、ほぼありえない。
そんな色々おかしい個性豊かな時ノ宮の御簾の向こうにいる天皇、月夜ノ姫様は、いつでも通常営業です。
御簾の向こうの月夜ノ姫様は、今日も通常営業です。 大祝 音羽 @senasyugetsu
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