第11話 饒舌

「いやー吃驚したよ、大人になったなー」

「そんな変わってないと思いますけど」

「でも化粧とかしてなかったじゃん。周りの子はほとんどしてたけど」

「…はあ」


この人の大人の基準は化粧なのだろうか。まあ…それも、あながち間違っていない…のか、どうなのか…いまいち分からないが。


何か流れで居酒屋に来てしまったけれど…

何でも、昔の教え子とお酒を飲むのが夢だったらしい。

お酒も何もまだ時間も早いし、男同士の方がしっくりくる様な気もするが、先生にはこだわりも特に無いらしい。


「先生は相変わらずですね」

「え?それって若いって事?」

「いや…まあ」

「つまみ、追加してやろう」

「結構です」


日本酒をちびちび飲みながら、明日の出勤の事を考える。

お酒には強いが、あまり明日に響かないようにしないと。


「しかし、まあ…市岐のポケットからポロッと何か落ちた時、ベタにハンカチかと思ったけど花とはなー!」

「ベタも何も実際そんな事無いでしょう普通は」


「市岐は現実的だなー実際あったのに」


まあ確かに私も花なんて興味無いから、まさかポケットから花を落とすなんて無いと思っていた。

きっと河川敷に大きめの野花が咲いていたので、粗方、双葉さんが摘んで入れたのだろう。


「…ていうか、先生。今、私がやってる仕事とか聞かないんだね」

「ん?今はもう俺は市岐の教師じゃないし、若者がやる事にいちいち口出す権利も無いだろ。あ、アドバイスなり欲しいってんなら喜んで聞くけ…」

「結構です」

「あ、そう」


「…私、今水商売やってる」

「自分から言うんか。ま、凄いじゃん」

「凄いって何」

「いや、よく分からんけど大変そうだなーとは思うし」

「分かったら怖い」


「だろ?それに、市岐は綺麗な顔してんだし…まあ、他にも見た目重視の仕事は色々あるけど。いいんじゃないか。話術は別として」

「先生それ若干ディスってる」

「ディス?え?」


「先生はキャバとかスナックとか行くんですか」

「俺は付き合いで行くぐらい」

「ふーん」

「何だよ、自分から聞いといて興味無さそうだな。あ、今度冷やかしに行ってやろうか」

「結構です」


そう言いつつも、残り少なかった日本酒をグイッと飲んだ私は、とりあえず名刺を渡しておいた。


夜、早速メッセージが来たけど、既読無視のまま床に就いた。







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