第8話 現在

―…あれから5年の月日が流れた。

ゴタゴタが起きる事も多く、バイトを転々としたが、結局性に合う水商売に就いた。

今は身体を売る事もほとんど無いし、そこそこ稼げるようになった。


母とは相変わらずで、もう終わってしまった成人の日も、母は不干渉だったが、稀に家に帰って、母がしたようにテーブルにお金を置いて来ると、次行った時には無くなっているので、受け取ってくれていると信じている。



――…


今日は休日だが、特にやる事も無いので、なんとなく近所の河川敷に来てみた(…ものの、何がいいんだか)


ちらほらと、のんびりしている人達がいるが、私にはどうも退屈に思えてしまう。

他の場所に行こうと、立ち上がり振り返ると、若い女性が立っていた。


「こんにちは!」

「…こんにちは」


挨拶されたので、返してみたものの、貼り付けた様な笑みの彼女からは、何も感情が伝わって来ない。

少し、不気味に思えた。


「あの、何か?」

「良かったら、カフェにでも行ってお話しませんか?私、暇なんですけど」


何だかよく分からないが、ナンパ、なのだろうか?


「ね。もちろん奢りますから!」


先程から全く表情が変わらないままで少し怖い。

けれど特に断る理由も無いし、少し考えて、何となく、誘いに乗ってみる事にした。



カフェに着くと、女性は店員さんと顔見知りらしく、挨拶して席に着くと、注文せずとも次々スイーツが運ばれて来た。


私も飲み物を頼んだが、目の前で驚異的なスピードで減っていくスイーツから目が離せずにいた。

私より小さい身体の何処に入っているのだろうか。


「私は、双葉 葵!お姉さん、お名前は?」

「市岐 紗弥です」

「いい名前だね」


食べるスピードは落とさないまま、合間合間で上手く会話を続けている。

一体どうなっているんだろう。


「何で紗弥ちゃんは、河川敷にいたの?」

「いや、特に理由は無いです。ただの散歩で」


いきなり名前だけれど、何だか自然というか、嫌な気はしなかった。

敬語もやめる様言われ、話しを聞いているうちに、そのまま流れで連絡先を交換した。

…この先、また会う事はあるのだろうか。


「それじゃあ、紗弥ちゃん!また連絡するから、お喋りしてね!」

「うん」


ブンブンと腕がちぎれそうな程振っている双葉さんに、私も小さく振り返す。

すると、振る手が片手から両手になり、それは角を曲がるまでずっと続いていた。



見た目や言動は幼いのに私より年上だし、何だか不思議な人だった。

でも、久しぶりに人の話を聞いていて、楽しかった気がする。


それは勿論、仕事じゃないから、という事もあるけれど、私が元々、よく喋る人が好きなのかもしれない。



そう…三条さんの様な人が。



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