第6話 利用価値

あの後ゆっくり寝て、登校したものの、怠さは取れなかった。

机に突っ伏していると、キンキンと高く、耳をつんざくような声がして、そちらに目を向けた。


「マジ見たんだって!ヤバくない?」

「えー!だとしたら、辞めるのかな?」

「当たり前じゃん!」

「でも歩いてただけでしょ?違うのに騒ぐのもさ…」

「いーや!絶対そうだよ!!」


何の話かと思えば、四谷先生と女生徒の話のようだ。

昨日見たのは、私だけじゃなかったらしい。


もうすぐ私達は卒業するし、そんなに気にする事も無いだろうに。


(…煩い)

まだ登校してすぐだけれど、今日も夕方から予定が入っている。

体調が悪化する前に、担任の社会科準備室に行って仮眠でも取っておこう。



「市岐!おはよう!!」

廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

振り向くと、言わずもがな四谷先生だった。


相変わらずの元気の良さだが、噂されている事に気付いているのだろうか。


「…おはようございます」

「ん?顔色悪いぞ。大丈夫か?」

「大丈夫で…」

「四谷先生!」

声のした方を見ると、隣のクラスの担任がいた。


「何ですか?」

四谷先生が近付くと、声を潜めて話し始めた。

もう行っていいだろうか…。


「…分かりました」

と、思っていたら話しは終わったようだ。

四谷先生がにっこり笑う。


「保健室、行くんだろ。ひとりで行けるか?」

「いや、御手洗い行くだけなんで」

「…そうか。無理するなよ?」

「はい」


大方、呼び出しでも食らったんだろうな。

学校側も放っておく訳にはいかないし。


(…さ、早く行って寝よ。)



社会科準備室のドアを開けると、担任の姿は無かった。

小さめのソファに身体を預けると、すぐに睡魔が襲って来た。

ひとつ小さく欠伸をすると、私はすぐに眠りについた――…



「ん…」

目を開けると、担任が机で書き物をしていた。

時計を見ると、結構な時間寝ていたらしい。昼御飯が終わった頃だ。


「起きたか。おはよ」

「ふぁ…おはようございます」

「腹は?」

「空いてないです」


背伸びしていると、担任が立ち上がりソファの近くまで来る。

ソファに乗り上げ、口付けてきた。


「ん、昨日したじゃないですか」

「俺まだ若いからさ」

そう言って、私をソファに押し倒しながら、徐々に激しさを増してくる。面倒くさい。


「口で我慢してください」

「えー。ま、いいけど」


カチャカチャとベルトを緩め始めた担任から顔を背け、私は小さく溜め息を吐いた。


卒業まで、あと少し。

私は進学せず、バイトするつもり。

だから、この担任も、卒業したらもう用済みだ。


利用出来る新しい相手を見つけないと。

そうやって生きていくと決めたのだから。









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